その6

前回の概略:葛西先生は三度目の正直を試みたっちゃ。高本先生は富士の風穴位冷たかったっちゃ。そんな高本先生を観察してみたいと、葛西先生は企み始めたんだっちゃ(笑



 平凡だけどまぁいいか、と葛西先生は納得する。果たして、高本先生はとうとう小学生の夏休みのアサガオ・ヘチマレベルまで成り下がってしまった。哀れ高本先生。その一方で《byタクピー》と自分で記してしまう葛西先生は、端から見てただの悪巫山戯と非難されても仕方ないのだが、本人は至ってクソが付く程の真面目だからタチが悪い。

 こうして葛西先生による高本先生の人間観察が始まった。葛西先生は、3D本が置いてあるブースで本を見るフリをして、長椅子がある方向を見張っている。あそこに座ってはいるが、きっと何らかの次の行動をとるに違いない。高本先生はこのコーナーの何に興味を持つのだろう。楽しみだ。様々な行動パターンを考えながら、葛西先生は、声には出さないものの、こぼれんばかりの笑みを少し細めの色白な顔に浮かべていた。

 しかし、当の高本先生は、観察者である葛西先生の過剰なまでの期待を全て裏切るかの如く、長椅子に座ったままで全く動こうとしなかった。開始から2分、3分…と時間が経過するも一向に動こうとしない。何を見るでもなくただ前をじっと見つめているだけで、長椅子の真ん中から移動する気配すらない。葛西先生は不安になってきた。と同時に苛つきを覚えるようになってきた。何故動かぬ高本先生。ここは博物館だ。様々なコーナーを歩き回りながら見学する施設の筈だ。このコーナーにいるのも、何か興味のある展示物があるからではないのか。何故動かぬ。などと考えていたが、観察の基本理念即ち「忍耐」という漢字二文字が頭の中に記され、おっと危ない、対象物がこちらの意のままに動いていたら、もはやそれは自然観察ではないではないか、と我に復った葛西先生。このまま動かなくても我慢して観察を続けるんだ、と再び高本先生に注目することにした。

只今5分経過。

 その時状況が少し変わった。高本先生が、自分の左側に置いていた35×25×10cm程の黒い合成皮革製のショルダーバッグの中からある物を取り出したのだ。何だ?と注目した葛西先生の目に映ったものは白いタオルだった。商店街の粗品などで貰えるような、ごくごくありふれたあの白いタオルだ。

〈あれには見覚えがあるぞ〉葛西先生は思い出した。高本先生は何かにつけて必ずといってよい程白いタオルを持っていた。それは夏・冬などの季節に関係なく、授業中にも、職員会議の際にも、所構わず如何なる時にも白いタオルを身に携えていた。ただ、それで汗を拭うわけではなく、汗拭きにはポケットの中にある地味な色のハンカチを使用していた。

『タオルはお守りなのだろうか』疑問に感じた葛西先生は、メモ帳にこう書き記した。高本先生はすぐさまタオルを自分の首廻りに掛けた。只今6分経過。

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