釈明会見(二)

【釈明会見 その二】


「これより△▽電機株式会社社長◯△☆♂より、弊社製大型冷凍冷蔵庫で発生している不具合、及び今後の弊社対応につきましてご説明をさせていただきます」


 (社長登場。自らマイクを持つ)


「説明に先立ちまして、不具合によりカスタマーの皆さまへ多大なご迷惑をおかけいたしましたことを、深くお詫び申し上げます。さて……」


 (報道陣が、一斉に集音マイクを社長に向けた)


「まず、弊社製冷凍冷蔵庫、型番VVV00000で多発している不具合について、ご説明申し上げます」


「昨今、当社のものに限らず、大型冷凍冷蔵庫が凶悪犯罪の隠匿に用いられる事例が発生しております」


「すなわち、人の屍体及びその解体物を冷凍もしくは冷蔵することで犯行を隠す、もしくは発覚を遅らせようとするものであります」


「最近は家庭用冷凍冷蔵庫の大容量化が進みまして、業務用の大型庫でなくても流用可能になり、我々の業界におきましても対応に苦慮しているところでございます」


「そこで目的外利用が困難になるよう、我が社が総力を挙げて開発しました特殊なセンサーを組み込み、犯罪への流用防止に先鞭を付けました」


「先にドラム式縦型洗濯機において過剰に高度なAI機能を搭載し、誤作動でお客様にご迷惑をおかけしました反省を生かしまして、冷凍冷蔵庫に組み込んだ弊社のセンサーは極めてシンプルなものといたしました」


「すなわち、庫内に投入されたものが『屍体』であった場合、冷蔵および冷凍の機能が停止するように設計いたしました」


「当該機能は、あくまでも目的外使用を防止するためのものでありますから、いわゆる隠し機能に当たります。使用マニュアル等には一切記載がございません」


「一般のお客様には、当該機能を特段意識せず使っていただけるようにという配慮でございました」


「しかしながら」


「センサーの閾値を下げ過ぎ、人間以外の屍体についても、それが屍体であると判断して勝手に運転を停止してしまう事例が多発しまして……」


「牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類およびその加工品、魚介類、加熱した野菜類、加工食品、冷凍食品、ジュース等の農産加工品……」


「全て屍体であると判断され、機能停止により腐敗させてしまいました」


「センサー感度の閾値を低くし過ぎたことが原因でありますので、本日本件について公表いたしますとともに、マニュアルにも当該機能を明記し、無償でセンサー感度調整を実施させていただきます」


「さらに、センサーが疑わしい用途外利用を感知した場合、運転停止ではなく、音声での警告アナウンスが発せられるように改良いたします」


 (社長が手元のICレコーダーを操作して、マイクを近付けた)


『お客様が今お入れになったのは、人間の屍体の可能性がございます。直ちに使用を中止してください!』


 (ざわざわざわざわっ! 会見場がざわつく)


「なお、改良を行わない場合でも、屍体以外の冷凍、冷蔵は現在も可能でございます」


「新聞や雑誌、トイレットロールなどの紙類、漬物石、化繊の衣類、超純水などは弊社で作動確認済みですので、安心して庫内で冷蔵、冷凍していただけます」


 ぺこり。



【おしまい】

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