釈明会見(一)

「これより△▽電機株式会社社長◯△☆♂より、弊社製洗濯乾燥機で発生している不具合、及び今後の弊社対応につきましてご説明させていただきます」


 (社長登場。自らマイクを持つ)


「説明に先立ちまして、不具合によりカスタマーの皆さまへ多大なご迷惑をおかけいたしましたことを、深くお詫び申し上げます。」


 (社長が深々と頭を下げ、報道陣が一斉にカメラを向けて、フラッシュを光らせた)


 ぱぱっ。ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃっ!


「まず、弊社製洗濯機、型番XYZ99999で多発している不具合について、ご説明申し上げます」


「該当の縦型ドラム式洗濯機は、他社製品で発生した幼児の閉じ込め事故を勘案し、人工知能いわゆるAI機能を搭載して、洗濯槽内部に衣類以外の異物が投入されていないかを監視し、扉の開閉、作動の停止、警告アナウンス発声を自動で制御するようにいたしました」


「当機能はお客様から高評価をいただき、くだんの洗濯機が弊社のベストセラーとなったのは、みなさまよくご存知の通りであります」


「しかし、そのAIプログラムに重大な欠陥がございまして、それによりお客様に多大なご迷惑をおかけすることになってしまいました」


「弊社採用のAI機能は学習型であり、お客様が手動で識別情報を入力しなくても、自力で能力を向上させていくようにプログラムされておりますが、その学習能力が異常な方向に発達してしまいまして……」


 (がさごそ。社長が資料を広げて読み上げる)


「以下のような、あってはならない事例が多発してしまいました」



「泥まみれの洗濯物や親父の加齢臭が染み付いた洗濯物を嫌って、ぺっと吐き出す」


「稼働中洗濯槽を覗くと、労働の過剰監視だ、パワハラだと騒ぎ立てる」


「洗濯物が少なすぎるとバカにするなと怒り、多過ぎると俺を殺す気かと怒る」


「洗剤を変えると、味や匂いが嫌いだと泣き喚く」


「水道水が不味い、水が冷た過ぎると文句を言う。風呂の残り湯は使うな、俺は一番風呂にしろと要求する」


「洗濯槽にカビ取り用漂白剤を入れると、俺は潔白だ、必要ないとゴネる」


「最近流行している固形ジェル洗剤を投入すると、飴と間違えて食ってしまった、どうしてくれると凄む」


「花粉の飛ぶ時期に洗濯をすると、くしゃみして中身をぶちまける」


「粉末洗浄剤を洗濯槽に入れると、バリウム検査は便秘になるから嫌だと暴れる」


「洗濯物に貨幣や紙幣が紛れ込んでいると、すかさずネコババする」


「温風乾燥をセットすると、生乾きは絶対に許さんと、発火するまで稼働し続ける」


「節水モードにすると、俺の腹が荒れるからと勝手に水を足す」


「下着をネットに入れて洗濯すると、隠す必要なんかねえだろババア! と悪態を吐く」


「若い女性の下着をちょろまかして、その手の店に売り飛ばす」


「ドラムの回転が物足りない、刺激が足らないと、脱法ドラッグに手を出す」


「近くにかわいい幼女が来ると、洗濯槽の中に誘い込もうとする」




「弊社では洗濯機にあるまじきそれらの言動、行動を看過出来ず、この度無償でAIのプログラムをアップデートすることにいたしました」


「新AI機能におきましては、識別精度を大幅に引き下げますとともに、アルゴリズムをレゲエ風にいたしました」


「よりダルに、アバウトに、レイジーになり、みなさまに楽しくぽっこぽんとお洗濯していただけるものと確信しております。今後も、弊社製品へのより一層のご支援、ご鞭撻をお願いいたします」


 ぺこり。



【おしまい】

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