第2話 勘太郎12歳 その2
老婆が勘太郎を慰めながら四半時、勘太郎は一言も喋らず泣いたままだった。
老婆もほとほと困り果て、どうしようもないままだった。しかし、ほうっておくわけにもいかず、お腹でも痛いのか、体が痛いのかとひとつひとつ虱潰しに原因を探っていった。
そして、その度に首を振る勘太郎に老婆はある種安堵を覚えていきながらも、では何なのだとあれやこれやとまた聞いていく。そのうちに時だけが過ぎ、気づけば日も沈みかけていた。
「ともかく、ご飯にしようか、勘太郎。今日はお前の好きなうどんをこしらえるよ。だから、泣くのはおよし」
そう言って、勘太郎の頭を撫でると台所へと姿を消した。
少し経って老婆の息子夫婦が家を訪ねてきた。
「せっかくだから、一緒に食事でもどうかね」
老婆の提案に甘えて居間に入ると、夫婦の目にいつになく暗い勘太郎の姿が写った。勘太郎はあれから一応泣くのはやめたものの、隅の方で体を丸めて座っていたのだった。なにやら、下の方を向いて畳の目を今にも数えんばかりだった。その焦点は合っていそうにない。
夫婦は目を見合わせると、そっと台所へ行って手伝いをしつつ、老婆に訊ねた。
「母さん、勘太郎どうしたんだ」
「私にも分からんのさ。帰ってきてからはずっと……最初は泣いて喚いてたけどね。どうしたもんかね……」
そう言って、二人の方を振り返った老婆の眉が下がり、これはまた、いたずらより問題だなと夫婦は顔を見合わせた。
老婆の息子は妻を残して夕餉の準備を手伝わせた。老婆は悪いといつもの様に断るのだが、たまに断りきれない時がある。今日もまた是非もない。息子は1人居間に戻った。
「勘太郎よ、どうした?」
勘太郎が顔を上げると、いつもと同じように優しいおじさんの顔が見えた。そしてまたうつむきそして、肩を震わせて少しずつ泣いていた。
「よしよし、泣くな勘太郎……何があったか、おじさんに話してみい」
そう言ったって泣くのは止まらなかった。老婆の息子はたまにはこんなふうな事があってもよかろうな、と思いつつ、頭を撫でた。
「ばあから聞いたぞ。どうした勘太郎?いつものやんちゃらしくないじゃないか。ちょっと、おじさんに話してみい」
おじさんの優しく丸まった声に、勘太郎は前にも増してどっと泣きながら理由を話した。
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