勘太郎
かさかさたろう
第1話 勘太郎12さい その1
「こらあ!勘太郎ーっ!!!なんばしよるとね!」
静かな夜に怒声が響く。
「げえ!糸こんにゃくババア!退散退散〜」
ガラリと戸を開けて、少年が飛び出す。12歳という年の割には少し小柄だが、いい肉のついた体をして、駆け足で家を出ていった。糸こんにゃくと呼ばれた老婆は、玄関まで走って来たものの、逃げられてしまい、玄関の開いた戸を見ながらため息をついた。
「全く……。明日も早い。そのうち帰ってくるやろ。私はねるけんね」
老婆は紙になにやら文字を書いて開いた戸の表側にご飯粒を伸ばしたのりで貼り、戸を閉めた。
しばらくして勘太郎と呼ばれた男の子が帰ってきた時、電気の消えた家を見て、ババア怒らせたから戸に鍵かけられたかも……、と思った。
戸に手をかけてゆっくりと力を加えてみる。
「おっ、開いてる。よしよし、ババアも寝ればおさまるやろ。よしよし……おっ?」
なにやら紙に文字が書いたものがあることを発見し、剥がしたあとに丸めて手に持った。
ゆっくりと入ってゆっくり扉を閉める。
電気のついてない家の中を月の僅かな明かりと柱や壁を頼りにして歩き自分の部屋へと戻った。部屋に戻って僅かな明かりを頼りに文字を見ると、「戸閉メロ。鍵カケロ」と書いてあった。勘太郎はまた静かに部屋を出た。
勘太郎は普段下町のぎゅうぎゅう詰めの家々の1画によく怒る生真面目な老婆と二人で住んでいた。2人は実の家族ではない。これは勘太郎が9歳の時、老婆の息子夫婦に聞かされた話である。しかし、もっと幼い頃から勘太郎はどことなく知っていた。だから、いろんな面においていつもそのことを意識して生きてきた。
ところで、勘太郎はいたずら好きで何かと老婆の手を焼かせる。その度に老婆はいつも真剣に怒るので面白い、といたずらが止められなくなってしまっていた。この晩はこっそりと居間で捕まえてきた蛇と遊んでいたところを老婆に見つかったのだった。
ある日のことだった。
いつものようにたくさん寄り道しながら、友人と4人で家に帰っていた。その時、友人の1人が、
「今度うちの父ちゃんがデパート連れていってくれるんだぜ!羨ましいだろ!」
と言い始めた。2人の友人はいいなぁ、羨ましいなぁと口々に漏らす。
その時、勘太郎が大きな声を出した
「羨ましくないやい!デパートなんか、いつでも行けるだろ!そんなことでいちいち喜んでるなんてお前一体いくつなんだよ!」
「なんだよ、勘太郎。羨ましいなら羨ましいって言えよ。そんな大声出して羨ましさが出てるぞ」
そうして、そのうち、口論になって喧嘩になった。
家に帰ると、小さな声で、ただ今と小鳥の囀るように言った。
すると、戸の開く音に反応した老婆が、扉を開けて出てきた。
「ああ、勘太郎……おかえ……なんだい!どうしたんだい!?」
勘太郎の服は喧嘩でボロボロになっていた。そして、いたずらして怒られてもいつもかえるみたいにケロッとしてる勘太郎が目に涙をためているのを見て、老婆は気が動転したらしい。手拭いを持ってくるはずが、雑巾やら布巾やらを持ってきてしまって、結局、とにかく落ち着くために勘太郎を家にあげることを優先した。
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