第43話 構想
魔王城下町アデラートは東西に長い。
町と外の間には隙間なく塀が伸びており、楕円状の型にはめられた様だった。
「さて……どうしよう」
俺はいま、アデラート上空うん千メートルにいると思われる。
滅茶苦茶寒くて、気圧なんかが心配だが平気なのは吸血鬼のおかげだろうか。
下は見えない。
怖くて見れない。
ネネリが米粒のようになったあたりから見ていない。
『しょうしん』は飛行魔法だった。
魔法使いなら誰もが憧れる、いや、魔法使いじゃなくても憧れる飛行魔法。
俺はそれを体得したのだ。
感動に打ち震えながら俺は飛んだ。
どこまでも高く。
さながら気分は大空に羽ばたく鳥。直前に見た火の鳥に影響された感は否めないが。
とにかく飛んだ。
高く。
高く。
そして気付いた。
「この魔法……上しか行けなくね?」
飛行魔法『しょうしん』のハンドルは上にしかきれなかった。
気付いた時はすでに遅しで、もの凄い高さにいる。
いや、わかるんだよ。落ちれば良いっていうのは。
だけど落ちた先……着地はどうする?
寸前で身を
怖すぎるし、いきなり上手くいくとは思えない。
徐々に落ちる?それは今やってるけど、頭を上の姿勢をキープしようと思うと細かく上昇しなければいけない。
そして魔法の加減がわからない今、上昇量>下降量となって……結果更に上昇している。
これは……詰んでる。ドアノブのオセロより詰んでる。
はぁ。
なんで俺の魔法はこんなのばっかりなの?
ツンデレすぎない?もっとデレろよ!
思わず空中で地団駄してしまう。
まぁ誰も見てないから良いんだけど。
「楽しそうだな」
「どわっ!?」
突然声がかかった俺の背後には、少女がいた。
「ま……社長!?」
「そう、社長だ」
社長であり魔王である少女、ユユは俺のリアクションに満足したのかニンマリと笑う。
彼女の背には翼……というには不格好な魔力の塊(かたまり)が広がっていた。
「なにをしている?」
「いえ……その……降りれなくて」
「なんだ、そうだったのか。てっきり新しい遊びかと思ったぞ」
「そう見えましたか……」
「まったく、せっかくの力が。宝の持ち腐れというやつだな」
「あはは……」
乾いた笑いが漏れたところで「よし!」とユユが近づいてきた。
「社長?何を――」
「私が下まで運んでやろう」
「え!?本当ですか!」
「もちろん。困った部下を助けるのは上司の役目だろう?」
そういって笑うユユ。
ん?なんか見たことあるな。この顔。
疑問に思う間もなく、ユユが飛びついてくる。
「よっと」
「おわっ!」
それは抱きつくというにはあまりにも力強く、トロールに羽交い絞めされたかの様だった。
女の子に密着しているという興奮は微塵も感じさせない。
その姿勢のまま、徐々に体が傾いていく。
「え?社長?」
「はっは。気にするな。あっという間だ」
――ブン
ユユの翼がひときわ大きく広がる。
「ちょっ、まっ」
「あっはっはっ!」
思い出した。これはあの時の……俺の半泣き映像を見せた時の……悪魔の顔!!
「いっけぇぇぇぇーーー!!!」
「やめてぇぇぇぇーーー!!!」
ユユが地上めがけて
「あーーはははははははははははははは!!!」
「ぎいやぁーーーーーーーーーーーーー!!!」
「し、死ぬかと思った……」
「はっはっ!もう死んだではないか」
そういう問題ではないんだけど!
ぐぬぬ……この社長め、俺の忠誠心も下降してるぞ。
「なかなか楽しい遊びだったぞ、ドミニク」
ユユはそう言ってウィンクを決める。相変わらず似合ってない。
「ご主人様!大丈夫ですか!?」
ネネリたちもやってきたようだ。
「ドミニク様、無事デなによりデす。ところデこちらのお方は……」
「社長だよ。
「社長……社長といいますと……ゲぇっ!ま、魔王様!?」
「はっはっ。今は社長だ」
「し、失礼しましたっ!」
あぁ、ローエングリンは初めてだったな。
こんなのでも第3魔王、この反応もしかたないか。
「ところで社長は何をしていたんですか?」
「うん?まぁちょっと監視をな。そんなことよりこいつらはお前の部下か?」
「マミヤさんは違いますが、あとはそうですね」
「ふ~ん」
ネネリ、ローエングリン、そしてファムとウルウを見渡す。
子供達はユユに目を向けられると飛び上がりそうな程緊張している。
「なかなか面白い連中だな。それに……ずいぶん慕われているようだな」
「そうだと嬉しいですが……」
「ふん、私に見えないものはない。……鼻毛も泣き顔もな」
もうやだ
☆
「ドミニク様は凄いんですね!」
「社長様ととても親しそうでした」
部屋へ戻ると子供達が寄ってきた。
ユユがいなくなって解放された分、生き生きしている。
「ただの課長代理だよ。社長とはちょっと知り合いなだけ」
「社長様とお知り合いなんて凄い……」
この表情は……ウルウはもしかしたらユユに憧れてしまったのかもしれない。
全力で止めよう。
「空を飛べるなんて……僕にもいつかできますか?」
「きっとできるよ。だけど着地の練習を先にしておこうね」
「はい!」
ファムも素直な良い子だ。
この子達は本当に良い子なんだ。
だけど……俺がそれだけで
ファム、30万マーク。
ウルウ、40万マーク。
それが子供達の値段だった。
彼らの魔力量はファムが52、ウルウが45。平均が50~80と言われる子供の中でも低い。
そんな彼等がそれなりの値段で売られていたのにはわけがある。
ファムとウルウは異能持ちだ。
ファムは「視えない幻術」、ウルウは「紙精製」という異能を持っている。
ファムは生まれながらに「幻術」を使えた。だけどそれは誰にも視えない幻術で、家族も信用しなかった。
ところがある日、ファムが差し出してきたメガネを母親がかけてみると、そこは氷の世界だった。
「見えた?」と嬉しそうに問いかけるファム。暑いから涼しくしてみたと笑う息子を見て、母親は自分達が間違っていたことを知る。
能力があることと、その能力が「使える」ものかどうかは別問題で。
ファムの能力は「使えない」能力だった。なにせメガネをかけないと視えない。
魔族でメガネを好むものは少ないのでなおさらだ。
低魔力に使えない異能、そして子供ということが考慮されてこの価格。
奴隷市場を
ウルウは光さえあれば紙を精製できる。元世界であれば素晴らしい能力だけど、環境が悪い。
魔族社会で紙の価値はすこぶる低い。魔力を使った伝達手段があるから利用頻度が少ないのだ。
紙を作るのもめんどう、という感じで探すのも至難。ネネリにあげたメモ帳は貴重品だったりする。
更にウルウの能力にも制限があって、手のひらサイズの紙しか精製できない。
そんなわけで40万も妥当、と。
俺は彼らの能力を使ってあるモノを作りたい。
この会社では魔族であまり使わない紙を使っている。
そう、名刺だ。やたら凝った名刺。
この名刺と子供が遊ぶ様子、あの原始的な遊びをする様子をみてぼんやり考えていたのだ。
「カードゲーム」作ったら大ヒットするんじゃないか、と。
計画はこうだ。
まず、ウルウに紙を量産してもらう。
精製した紙に、会社の謎技術で社員の全身絵をプリントする。
あれだけ凝った名刺を作れるんだ。それくらい可能だろう。
そこに適当なステータスや効果説明なども添える。
この辺は元日本人の知恵を遺憾なく発揮させてもらう。
これだけでもヒットする予感はある。
なにせおはじきやら、かくれんぼに飛びつく連中だ。
「魔王ツエー」だの「ドミニクよえー」だのはしゃぐ様が目に浮かぶ。
だけど、更にもう一手。
ファムの「視えない幻術」を使う。
ゲーム専用遊技場を作り、そこではメガネを貸し出す。
これで世界はファムの思うままだ。
3Dとか目じゃ無い迫力でゲームを堪能できるはず。
ま、今は絵空事だけどね。
だけどいつか実現したい。
借金もあるし……。
さて、プレゼン会場でも抑えにいくか。
☆
あいつ、休みやがった!
プレゼン当日、ラウネー課長はお腹が痛い……とか言って部屋から出てこなかったらしい。
俺は会場の設営、資料配布、飲み物の手配をこなしながら、その衝撃の事実を知った。
そして事は起こったのだ。
「あの~、人事部2課の方ですよね?」
「そうですが……」
「ラウネー課長、お休みって本当ですか?」
「すいません、本当です」
なんで俺が謝らないといけないの?このカエル男に。
「じゃあ代わりにお願いします」
「え?何を?」
「司会ですよ」
……絶対仮病だろ!
魔族転生はわかったけど勇者の相手は残業代でますか? うめき うめ @dora-dora
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