第35話 ふたり

 暗闇を二人は歩く。


 

 闇が支配するその道は、行く者の距離感を狂わせ果てなく続くかのように主張する。


 コツコツと続く靴の音だけが互いの存在を教えてくれた。


 「どうしたの?」


 少年は、ふと足音が止まった少女を感じて・・・尋ねる。


 「何でもない。どこかで馬鹿が死んだだけ」


 つぶやいた言葉は抑揚が無く、その感情は伺えない。


 「そっか」


 少年は興味無さそうに返事をし、再び靴音が木霊こだまする。

 

 暫く歩いて闇よりも黒い何かが彼らを迎えた。


 それは壁。


 ここから行く先が無いことを証明するもの。


 

 立ち止まった少女は、そっと漆黒に手を伸ばす。


 二度、三度……何かを確認するかのように壁を撫でる。


 「ここね」


 瞬間、彼女の体が黄金に輝いた。


 光は周囲を照らし、誰も目にすることの無い壁が姿を現す。しかしその輝きも長くは続かない。光は徐々に、壁に吸い込まれていく・・・・・・・・


 やがて、あたりが完全に闇を取り戻した時、二人の姿は既に無かった。



 

 『イカイの大穴』には何も無い。


 光も、宝も、希望も……人と魔を隔てる壁さえも。

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