第30話 戦闘

 延々と続いた森を抜け道幅も広くなってきた頃、小高い丘にさしかかった。


 ネネリは早速ローエングリンから魔法の指導を受けた。今はできるだけ「小さな」火球を生む練習をしている。イメージと同じで魔法も小さなもの程具体化が難しい。


「細やかな魔法のコントロールがデきてこそ一流なのデす!」


 と、ローエングリンは言うが俺にはできる気がしない。まぁその前に『ほのお』が出ないんだが……。


 そんな至難の業(わざ)をネネリはあっさりやってのけた。ものの一時間程で豆粒程の火を掌で泳がせている。


 ローエングリンは逸材ダ!天才ダ!と五月蝿(うるさ)い。


 ネネリは自分が生み出した『ほのお』を愛おしそうに眺める。彼女にとって何かができる・・・ということは至福なのかもしれない。



 魔法の練習も一段落し、丘の上で休憩でもとろうか……そう提案しようとした時、


「――!――!!」


 丘の向こうが騒がしい。


 天気も良いし、祭りでもあるのだろうか。だけど、近くに村は無かったような……。


 土埃(つちぼこり)が舞い上がっているのが見えてくる。


 「オォー!」


 「ウォー!」

 

 丘に近づくにつれ、その声は殺気だっているのがありありと分かる。


 「このっ!くそが!」


 「ギャァアア!」


 「逃がすな!殺れ!」




 戦闘――




 「課長」


 それだけでラウネー課長には伝わったようだ。


 「ああ。止まれ」


 課長がスレイプニルに命じると、荷馬車はピタリと動きを止めた。

 

 「マミヤ。頼む」


 マミヤはわずかに頷くと、荷馬車から音もなく飛んだ。


 彼女はそのゴーストという性質から、索敵にはもってこいだろう。


 暫くして戻ってきた彼女は淡々と報告を始めた。

 

 「戦闘です。フードを被った集団12人。そうでない者……装備から恐らく冒険者が6人、その内一人は既に戦闘不能。フードの集団が冒険者を襲っていると思われます」


 「制圧は可能か?」


 課長が問う。それは最悪の場合、両方を相手にすることを想定していたが……


 「可能です」


 マミヤは即答した。


 「よし。私が前に出る。マミヤとローエングリンは援護しろ。ドミニクはネネリを守りつつ、頃合をみて『あの魔法』を使え。できるだけ殺すなよ。捕らえるんだ」


 「「「はい」」」


 俺達の了解を確認して、課長は荷馬車から飛び降りた。



 


 「止まれ!!」


 ラウネー課長の声が轟く。全員の視線が闖入者へ向けられる。


 彼女は丘の上から一時停止した彼等を見下ろしながら続けた。


 「動くな!第3魔王軍だ!」


 「なにっ!?」


 俄かにフードの集団がざわめく。


 「軍だと?」


 「ちっ!面倒な……!」


 「黙れ!!全員武器を捨てろ!」


 彼等の声をかき消す様に課長が叫ぶ。冒険者達は未だ呆然としている。いや、冒険者の中で一人……サイの様な顔の男はその瞬間を好機とみたのか、手にした斧を振りかぶった。


 「馬鹿っ!よせ!!」


 課長の制止にも、振り下ろされた斧は止まりようも無く、サイ男から視線を外してしまったフードの一人を襲った。


 鮮血が舞う。返り血を浴びながら、サイ男は笑った。


 「は、はは……仇だ……やったぞ、ニグー、こいつを殺して――」


 サイ男は全てを言い終える事もできず、ドッとひたいから倒れた。その背から生えたジャベリンが、彼が二度と立ち上がることはないと告げる。


 それが契機となり……静止した時間が動き出した。


 ラウネー課長に向けて弓矢が放たれる。それが彼等の返事・・ということだ。


 課長は矢を無造作に掴み、へし折った。


 「馬鹿……者が!」


 それは無謀に走ったサイ男に向けられた言葉なのか、それとも『これから無謀な戦いをすることになる』フードの集団に向けられたものなのかはわからない。


 姿勢を低くした彼女から決意の魔力が立ち上った。

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