第29話 かえりみち
オルトルートとエルザの縁談が決まったことで、同時にその日の宴も決まった。
晴れやかな話題がタンゴ族達を寛容にしたのだろうか。先程までは誰も話しかけようとしなかったローエングリンも、皆の輪の中にいる。妹は彼の稼ぎが
翌朝、帰り支度を終え荷馬車に乗り込もうとした俺達を、大勢のタンゴ族が囲んだ。すっとバジルが歩み出る。
「この度は本当に有難うございました。これは細やかながら我々からの感謝の印です。どうぞお受け取り下さい」
そう言って小指程の筒を差し出す。
「これは?」
「『魔力水』です。一人分ですが、何かのお役に立てば幸いです」
「そうか。有り難く使わせて貰おう」
課長はそう言って筒を胸に閉まった。
あんたはどこに仕舞っているんだ。それに、あれで一人分?一リットルは飲まされた気がするんだけど……。
俺の疑念をよそに、バジルは笑った。
「ドミニク様も有難うございました。娘も幸せになって……何とお礼を言っていいか。次は偉くなっていらっしゃるのでしょうね」
そういって笑顔になったタンゴ族達に見守られながら、俺達は村を後にした。
☆
カタカタとで揺られながら森の小道を行く。
タンゴ族の村からは大分離れ、
ふと自分が吸血鬼だったことを今更ながら思い出すが、なんとも無いということはなんとも無いんだろう。
そんなことをぼーっと考えていると、隣に座ったネネリがポツリと呟く。
「ご主人様は……やっぱり凄かったんですね」
「え?……そうかな?」
「ドミニク様は恐ろしいお方デす。あの様な魔法をお使いになるとは」
何故か反対隣に座ったローエングリンが答える。
俺とネネリの貴重な会話を横取りするなよ……。あと、近い、臭い。
「結局『ほのお』や『こおり』は使えなかったし、ネネリの方が凄いよ。いきなりあんなの出すんだから」
ローエングリンを無視して会話を進める。
「ネネリ様の才能も素晴らしいものガあります。是非鍛錬を!」
何故お前が答える。
「そんな……きっと何かの間違いです。私が魔法なんて……」
あぁ……ネネリの悪い癖だ。彼女は極めて魔力量が低いという生い立ちから、自信というものが全く持てないでいる。自分を「クズ」と言い切るくらい無能だと思い込んでいる。
だけどそれは間違いだ。悪魔なのに天使の様に愛らしい彼女は、そこに存在するだけで俺を癒してくれる。そして彼女はとても健気で、一生懸命だ。いつも何か役に立てることが無いか探している。
そんなネネリを「無能」という者がいたら、例え魔王でも俺は立ち向かうだろう。
この癖は直さなければならない。彼女には自信を持ってもらいたい。
俺は……そんな彼女を見てみたいのだ。
「いえいえ!あの大火球は才能の証明!鍛錬に励めバ必ず一流の魔法使いになれます!」
う、うるさいなぁ。人が真面目に考えている時に。いや、待てよ……そうだ。
「ローエングリン君。きみがネネリに魔法を教えなさい。……ついでに私にも」
「「え?」」
二人が同時に声を上げる。
「オルトルートさんに負けたとはいえ、君も魔法の上級者。教えることもできるだろう?」
「も、もちろんデす。ドミニク様のお役に立てるのデあらバ、身を粉(こ)にしてデも!」
「そうか。じゃあ頼んだよ……あ!ネネリに魔法を教える時は必ず私がいる時だ。私がいない間にネネリに近づいてはいけない。わかったね?」
「
そう言ってローエングリンは敬礼する。
不本意ながらキノコの扱いが上手くなった様だ。
「ご主人様……」
「一緒に頑張ろう、ネネリ。」
「……はい。宜しくお願いします」
ネネリに笑顔が戻った。
そんな様子を白けた目で見るラウネーに、マミヤが囁く。
「私達も練習しますか?課長」
「私はやらん!」
「そうですか」
マミヤのため息は木々のざわめきに消えた。
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