第24話 決着

《赤羽のタンゴ族》ローエングリンが魔力を集中させ、『ほのお』の魔法を唱える。すると九つに増した火球が中空で円を描き出す。やがて一つとなった『ほのお』は蛇へと変貌する。


 火蛇は頭を掲げ、《青羽のタンゴ族》オルトルートを威嚇するかの様に睨んだかと思うと、その体を捩じらせる。それはまるでバネが飛び出す直前の「溜め」であったかの様に、火蛇は跳んだ。


 猛烈なスピードで獲物へ向かう火蛇が、オルトルートを一呑みにせんとその大きな口を開ける。オルトルートの体程もある牙が、彼の目の前に迫る。


 しかし、その牙が届くことは無かった。


 オルトルートが右手を静かに振り下ろすと、いつの間にか頭上に生成されていた巨大な氷の剣が火蛇を貫く。火蛇は標的の一メートル手前で串刺しとなった。


 しかし、火蛇は止まらない。再び眼前のオルトルートを威嚇すると、体をうねらせ、氷の剣に巻きつき始めた。



 ここまでが、ネネリが目を逸らした十秒の間に起こった出来事である。



 「二人は今、それぞれの魔法の最も優れた形を想像しております。これを打ち破った方が勝ちでしょう。」


 バジルが解説する。


 『ほのお』と『こおり』の魔法であんなことまで出来るのか……。魔法凄すぎ。



 火蛇が剣に巻きついたその体を締め上げる。氷の剣からは「パキッ」という音がいたるところからあがり、その力が凄まじい事を物語る。


 

 勝機を見出した火蛇が、その絞った体に更に力を加え、ついに氷の「刃」に亀裂が入ったその時、下方……舞台から生成されたもう一つの「剣」が、火蛇の頭を顎から串刺しにした。


 火蛇は大きく体を震わせた後、まるで幻であったかの様に霧散した。同時に「ガクッ」とローエングリンが膝を着く。


 「勝者、オルトルート!」


 審判が高らかに宣言すると、再び大歓声が上がった。

 


 


 バジルから戦士達に一声かけてくれ、と頼まれ俺達は舞台の上に立った。目の前には二名の戦士が膝を付いている。魔法を打ち破られたオルトルートは疲弊しているのか、傘に刺さった赤い羽が上下に揺れていた。


 「素晴らしい勝負だったぞ、お前達。」


 ラウネー課長が賛辞を送る。


 「勝ったのはオルトルートさんですが、僅かな差でした。それ程二人の実力は拮抗していました。」


 マミヤも続いて二人を称える。


 「とは言え、勝負は勝負……。」


 課長の声が低くなる。


 「ではオルトルートをお連れに、ということで宜しいでしょうか?」

 

 「あぁ、そのつもりだ。」


 バジルの問いに課長が答えた、その時、


 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ローエングリンから声が上がる。


 「どうした?」


 課長がローエングリンを見つめながら問う。


 「い、いや……。あんた、ド、ドミニクさんは見たダろ?あれを。」


 ローエングリンが俺に視線を送る。


 「あれ?なんですかね?」


 「ダから……!あの夜、俺ガ……脅されていたのを……。」


 「あぁ~、あれですか。青い羽を付けた方が、赤い羽の方に『負けろ』と言っていましたね。」


 「なっ!?」


 今度はオルトルートから驚愕の声が上がる。しかし、それに構わずローエングリンは続ける。


 「デ、デしょう?デあれバ、この勝負は……。」


 「いや、結果は変わらない。勝者はオルトルートだ。」


 ラウネー課長が決然と言い放つ。


 「そ、そんな……。」


 「ま、『仮に』どんな事をしても勝ちは勝ちですし。それに……私が見たのは《青い羽》をつけたあなたです。ローエングリンさん。」


 「な、なにをっ!?」


 呆然としていたローエングリンの目が見開く。


 「あなたに伝わるかはわかりませんが……あれはあなたの『自作自演』というやつですね?」


 ローエングリンの震える傘から、赤い羽がひらひらと落ちた。

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