第20話 ネネリの日記

 こんにちは。


 ネネリです。


 今日から「日記」をつけていこうと思います。初めてなので、これで良いのか分からないけど……毎日書ける様に頑張ります。


 今日までの事が色々あって、最初から長くなるかもしれません。ごめんなさい。




 私はこの街『アデラート』の北区、大勢の魔族の寝床となっている場所で生まれました。父と母、姉の四人家族です。


 父は高い魔力を持っていて、その能力(ちから)を活かして色んな場所から希少なアイテムを持ち帰る……そんな仕事をしていました。優秀な部下の方も何人かいたようで、私の家は魔族の中でも比較的……裕福な暮らしができていたかもしれません。


 父は仕事で家にいない事が多かったのですが、母も姉も優しくて、私は家で過ごす時間が好きでした。




 10歳。生まれて10年目は私達にとって大事な年です。


 それは10歳から5年毎に魔力の測定を受けなければならないからです。


 2年前に魔力測定を受けた姉は、78という子供としてはとても多い魔力量を持っていることがわかりました。


 父の影響かもしれません。


 そんなこともあって私の魔力量には両親も、とても期待していたと思います。


 ドキドキしながらも、私も期待していました。良い数値を出せば、両親が喜んでくれると思ったからです。


 今思えばとても分不相応な期待だったと、少し可笑しくなります。


 結果は良くありませんでした。私のその時の魔力量は45。姉の数値はおろか、他の子供と比較しても少ないものです。


 私は気落ちしましたが、母は私よりショックを受けていました。


「私のせいだわ……。」


 母はそんなことを呟いていました。


 母の魔力量が普通の魔族より少ないことを私が知るのは、もう少し先のことです。


 魔力の少ない者にできる仕事は少なくなります。パートナーを見つけることも難しくなります。(そういった意味では母は幸運だったのかもしれません。)


 当時の私にはそこまで考えることはできませんでした。


 ただ……私は母に、家族に失望されたかもしれないと不安になりました。


 家族の私への態度は変わりませんでしたが、それでもその気持ちは拭えませんでした。


 私はその頃から、積極的に家の手伝いをすることにしました。


 自分にできることを少しでも増やして、家族の役に立とう……そう思ったのです。


 母は……何も言わずに家事を教えてくれました。




 15歳。あっという間に5年が過ぎました。私は家のことなら殆ど一人でできるようになっていました。


 そのことは、私に少しだけ自信をつけてくれていました。


 だけど、再び受けた魔力測定はそんな私の自信を嘲笑うかのようでした。


 私の魔力量は38に……下がっていました。有り得ないことです。


 魔族は年を重ねて魔力が増えることはあっても、減ることはありません。


 魔族の魔力量が下がるのは、その死期が近づいた時、そのほんの僅かな期間なのです。


 年若い魔族の魔力量が減るなんて話は、誰も聞いたことはありませんでした。


 家族は最初、私が「もうすぐ死ぬかもしれない」と思いました。


 だけど、いくつかの『魔療院』で診てもらいましたが、私の身体に異常はありませんでした。


「呪いだ」


 そう言う方もいました。


 次第に家族は私の扱いに困るようになりました。


 父は私に外に出ないように命じました。


 姉は私に近寄らなくなりました。


 母でさえ……会話は極端に減りました。私を見る目は……怯えたような……言い様の無いものになっていました。


 私は一人で過ごす時間が増えました。




 それから1年。私は16歳です。


 ある日、父が家に帰ってきました。


 私は不思議に思いました。今回の父の仕事が終わるのは、もっと先だと知っていたからです。


 だけど、そんな疑問は帰ってきた父の姿を見て吹き飛びました。


 父は全身傷だらけで、意識も朦朧とした状態だったのです。


 急いで『魔療院』へ運んで手当てをした為、命を落とすことはありませんでしたが、手足は二度と動かなくなりました。


 父の話によると、今回の仕事は人族領の近くにある薬草の採集だったそうです。


 人族領の近くには希少なアイテムが多く存在すると言われています。


 父は『エスト』で、ある場所にその薬草が大量に群生しているという情報を得ました。そして部下を率いてその地へ向かったのです。


 何日もかけていくつもの山を越え、ようやく辿りついたその場所で父達を待っていたのは、勇者とその仲間でした。


 全ては彼らの罠だったのです。


 魔族を呼び寄せ、狩り、自らの糧にする為の。


 父は大勢の部下を失い、自身も重症を負いながら、帰ってきたのでした。




 私の家はあっという間にお金に困るようになりました。


 父は仕事ができない体になり、それまでの蓄えは亡くなった部下の家族に支払ったからです。


 母はショックで寝込むことが多くなりました。


 姉は既に仕事を始めていましたが、それでも全く足りませんでした。



 私は自分ができることを考えました。


 能力の無い私に、できることを。



 そして私は、自分を売ることを決めたのです。

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