第14話 目覚め

 あぁ――


 あったかい。


 じんわりと、心地いい何が俺を包み、ゆらゆら揺れている。



 それはまるで、穏やかなハルの陽射しの中、ハンモックに揺られながら昼寝をしているような、そんな心地良さ。


 えぇ、ハンモックなんて持ってないし、使ったことも無いんだけどね。


 だけど、きっと「こんな風なんだろうな」なんて情景が浮かんでしまう。


 小鳥のさえずり、樹々のざわめき、遠くで子供達が遊ぶ声。全てが耳に心地良い。


 ずっとこうしていられたら――


 そんな事を思いながら、いつまでも揺られている。


 ……誰かが近づいて来る足音が聞こえる。この小さな足音は子供だろう。


 起き上がって、音のする方に目を向ける。やはり子供だ。


 目を凝らす。


 すぐ側に居るのに、子供の顔は靄がかかった様に見えない。かろうじて、口元が動いているのがわかる。


 耳を澄ます。


 どうした事か、先程まで聞こえていた音が消えていた。


 なんだろう……俺は少しずつ、嫌な気分になる。


 それは、この子供の口の動きが『おにーちゃん』と言っている様に見えるから、かもしれない。


 兄弟はいなかったし……それ以上に何か気味が悪い。何故か分からないが不快だ。


 やがて、子供は諦めたのだろうか。話し掛ける事を止めた。


 俺は少しほっとする。そうだ、さっさとあっちへ行ってくれ。


 しかし子供は動かない。目の前で立ったまま、微動だにしない。


 その時、周囲の世界が、何時の間にか日が落ちた様に薄暗くなっている事に気付く。


 あれ?


 ――何もない。無くなっている。他の子供も、俺が揺られたハンモックも、それを支えた木すらも。


 薄暗い世界に、俺とその子供だけがぽつんと存在している。


 子供の口角がゆっくり動あがっていく。


 あぁ――止めてくれ――


 どす黒いオーラが立ち昇る。


 頼むから、もう許してくれ――


 漆黒のオーラが俺にまとわり付く。それは灼熱の業火の如く、俺の体を焼いた。


 ――熱い!


 俺がのたうつ様子が気に入ったのだろうか。子供はおかしくてしょうがないみたいだ。


 まとわり付く業火は俺の体内に入り込み、内側から俺を焼く。血が沸騰するような、そんな地獄が続く。


 熱い熱い熱い熱い――こい熱いつ――こいつの熱いせい熱いで――熱い俺は――熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――――


「熱い!」


 俺は覚醒した。

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