第13話 帰社
「なにしてるのー?」
男の子とも女の子とも言えない顔立ちのネロンは、きょとんとした表情で小首を傾げる。
しまった・・後をついて来ていたのか?ネロンはこいつと仲が良かった。この光景をどう説明する・・。
「ロン、なにしてるのー?」
どうする?事情を説明して・・いや、出血が酷い。いくら俺が魔族でも、悠長に説明している暇は無い。いっそ・・この子に外へ連絡を頼むか?でもそれは・・くそっ、痛くて考えがまとまらない!
待て・・。
待て待て・・。今ネロンは何て言った・・?
『ロン』・・だと?
全身を悪寒が駆け巡る。
なんでお前がその名前ロンを知っている?
俺の疑問は未だ玄関から動かないネロンを見た瞬間に理解した。理解せざるを得なかった。
同じ悪魔といっても別の種族の様に、顔の作りは全く違う。しかし、その歪んだ笑みはロンと瓜二つだった。
「ロン、なにしてるの。遊びすぎだよ。」
悪寒が明確な危機感へ変化する。
ネロンが呼び掛けるその視線の先には・・ロンが何事も無かったかの様に立ち上がっていた。
「ごめんごめん。おねーちゃん。」
なんで・・立てる!?『おねーちゃん』!?この悪魔が?一体何なんだこれは・・!
「おにーちゃんが変なアイテム使ってさ。ちょっと聖力を奪られちゃった。ホント、僕の背中に付けた紙とか、おにーちゃん色々持ってるんだね。」
俺はもう、何も言葉にならない。理解が追いついていなかった。
「あははぁ。分かんないよね?何で聖力を奪られて動けるか。おにーちゃんは僕が魔力を偽装してると思ったんでしょ?」
違うのか?
「違うんだよ。正解はね・・こういうこと!」
ロンが右拳を握り締めると、その身体から再びオーラが放たれる。
しかしそれは金色に輝くことは無く・・漆黒の闇となってロンの姿を霞ませる。
「馬鹿な・・これは魔力!?」
「あははは!正解!僕はね、両方使えるんだ。おねーちゃんみたいに、変異は上手く出来ないけどね。」
ロンにつられてネロンの方に目をやると、そこに彼女は居なかった。
そこに居たのは人の少女。ロンと同じ銀色の長い髪を、まるで何かを振り払うように左右になびかせ、こちらに目を向ける。その目は恐ろしい迄に寒々しい。
凍てつく目が俺の瞳を捉える。その冷気が・・恐怖を通り越して俺を冷静にさせたんだろうか。
「お姉さん、いたんだな。」
何故か俺は、そんな事を口に出していた。
「あははぁ。『いない』とは言ってないよ。でも、そんな事を考えてて良いの?」
「その通りだよ。」
その通りだ。そんな事を考えている場合ではない。だけど・・では一体、何を考えろというんだ?
目の前には馬鹿げた魔力を発する少年。出口を塞ぐ少女は・・いつの間にか全身から発する寒気を眩しい程の聖力へ変えていた。
「逃がさないよ。」
少女がポツリと呟く。ともすれば聞き逃してしまう位の小さな声は、絶対の力を持って俺を縛る。
あぁ。
これはだめだ。詰んでる。
「おにーちゃん、諦めて死んでよ。仕方ないじゃない。おにーちゃんも僕を狙ったんだから。」
「全く・・その通りだよ。」
ロンの一言は、既に諦めつつあった俺に残る、怒りも生への執着をも圧し折るのに十分過ぎた。
子供を殺そうとして、殺される。
因果応報か。其れとも弱肉強食か?
思考は加速する。
あー、それにしても何だよこの化け物は?聖力と魔力、両方使えるなんてあり?神様、設定ガバガバ過ぎんよ。折角転生したのに。何で俺だけこんなハードモードなわけ?奴隷とか夢見せといてそりゃないわ。
奴隷・・ネネリにもう一度会いたかったなぁ。あんなにビビッと来たのは初めてなんだ。これが恋なんだろうか?33年生きて初だぜ?お金を工面するまでは・・って我慢してたけど、やっぱり会っておけば良かったなぁ。
会いたいなぁ・・。
ネネリにもう一度あ
ロンの『魔剣」がドミニクを斬り裂いた。
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