第10話 定期訪問
魔族の平均的魔力は80~100といわれている。
魔王軍兵士の平均は100~120。魔王軍とはいえ、圧倒的に強いわけではない。
子供であれば50~80といったところらしい。
そして俺の魔力は83。魔族の中では下位レベルのようだ。
少し手強い子供といい勝負ができてしまう。いや、魔力操作もまだ上手くできない為、下手すると負ける。アルデフロー課長が言うには、元世界の固定観念が魔力操作を阻害しているかもしれない……とのことだ。
はぁ……あらためて数字にすると俺の弱さが良く分かるな。課長の半分とはね。
しかし魔力の多寡をこんなにオープンにして、社内で問題にはならないのだろうか?イジメとか。
そんな疑問をツォン課長にぶつけてみると
「大丈夫だよ~。魔力が強さの全てではないからね。魔力が弱い者は、逆に『強力な能力を持っているのでは?』と警戒されるよ」
という答えが、爽やかな笑顔と共に返ってきた。
なるほど、「弱さ」が「弱み」にはならないわけか。
しかしそれは能力を知られていない前提だ。
俺の持つ最大の武器は「歯」……。これは知られたら不味い。バレた途端にトイレに呼び出されるに違いない。絶対に秘密にしよう。アルデフロー課長も……口止めしておこう。
翌日、朝から奴隷市場を見て回った。自分の部下探しでは無く、2課の通常業務……奴隷からの人材確保の為である。
自分の部下探しでは重要事項(美人)に目を奪われ、些事(能力)は無視していたのでもう一度回る必要があった。
初日から公私の私を優先してしまった為、挽回しないと。
初めて見て回った時は「当然」気づかなかったが、奴隷は魔力測定されているようだ。奴隷の服や、あるいは体に直接数字が書かれている。これはとても参考になった。
一通り見て、気になる者、事をメモしてから奴隷市場を後にする。元々すぐに購入する気は無い。しばらくは視察だ。
☆
1時間程街で時間を使って、昨日子供達が遊んでいた場所へ到着した。
今日も彼らは集まっているようだ。
かくれんぼ(子供達は魔王ごっこと呼んでいた)がお好みだったのだろうか。彼らは既にゲームを始めている。
魔王が2人いたり、勇者を見つけた後、決め台詞を追加してみたり、自分達に面白いようゲームを改良していた。
そんな子供達に感心しつつも、エッグと思われる悪魔の子供を目で追っていた。
彼は子供達にアルトと名乗っているようだ。
アルトは羽の生えた悪魔の子供……ネロンと特に仲が良いようで、常にネロンの傍にいた。
すぐにでも『勇者の涙』を使いたかったが、あまり誰かに見られるのは不味い。万が一違っていた場合、面倒が起こる可能性がある。
かくれんぼに参加しつつ、アルトと2人になれるチャンスを待った。
何度目かのジャンケンの後、ついにその時が来た。
俺はアルトと同じ露店の裏に隠れた。(隠れることができる範囲はどんどん広がっていた。)
彼は一人が心細い様子できょろきょろしている。
暫くして俺の姿を認めると声をかけてきた。
「おにーちゃん、そっち行っていい?」
「いいよ」
俺が頷くとアルトは身を寄せてくる。
俺は露天の裏で身をかがめ、アルトは俺の体の影に隠れる。
「まおーこーりーーん!!」
魔王役の子供が大声を上げながら近くを通る。どうやら役に入り込んでいる様だ。
アルトは魔王の声が聞こえる度に、ぎゅっ手に力を込め、縋って来る。俺はそんなアルトを形容し難い心情で見守るしかなかった。
彼の背中には『勇者の涙』がぴったりと張り付いていた。
アルトがエッグだということが確定した。
あとはいつ『勇者封じの小瓶』を使うか、だ。できれば二人きりの時が良い。
他の子供たちにはできだけ見せたくない……。
結局、その日は小瓶を使うことは無かった。
「おにーちゃん、ばいばーい」
帰り際に、アルトとネロンが手を振って俺を見送る。
俺はチャンスを待ったのだ。二人きりになる、最高のタイミングを。
今日はその日ではなかった。また明日だ。
その次の日も待った。チャンスを待った。チャンスは来なかった。
その次の日も待った。チャンスは来なかった。
その次の日も……。
そして6日目。
今日もあの場所へ行く。
俺は自分を誤魔化すのが限界だと悟りつつあった。
本当はチャンス等何度もあったし、自分で作ることもできたんだ。だけど、小瓶は使わなかった。使えなかった・・・・・。
『まだ、魔族になりきれていないようだな』
アルデフローの声が何度も頭に響く。
怖いのだ……。自分のせいで、子供が死ぬことが。
捕らえた子供は殺される。例外なんて気休めにもならない。自分で手を下してはいないが、俺が殺したも同然だ。
しかも理由が最低。自分好みの奴隷を手に入れる為に、だとさ。
例え俺が魔族で、アルトが天敵の勇者の卵であろうとも、そんなことが許されるのだろうか?
そもそも中途半端に迷う「人間の心」を持ってしまった俺は、魔族といえるのだろうか?
わからない……
今日もあの場所へ行く。
何の為に行くのかわからないままに。
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