第9話 対勇者部7課

 対勇者部は人事部とは別の塔にある。俺はアルデフロー課長の指示の下、対勇者部へ向かっている。別塔へ行くのは初めてだ。


「えーと、3階の奥の部屋だから……ここで良いのか?」


 部屋の前で魔力を解放し、相手の反応を確認してから中へ入った。


 そこには、元の世界のスーツの様な物を着た男が立っていた。人型だが尻からは2メートル程の尻尾が伸びており、顔は鱗で覆われている。頭に乗せたメガネが珍妙だ。


「初めまして。人事部2課のドミニクと申します」


「やぁやぁ、良く来たね。対勇者部7課……通称『魔道具課』のツォンだ。アルデフロー君から聞いてるよ。異世界から来たといのは本当かい?」


 ツォンは興奮気味に聞いてくる。


「はい。異世界で人族として生きてきました。こちらとは大分、世界が違いますが」


 そう言うとツォンは、俺の方にズイッと顔を寄せてくる。


「興味深い!実に興味深い!君の世界ではこの服を着た人族が沢山いると聞く。これは君の物をちょっと拝借したんだが、一体この服は何なんだい?この細かい繊維・・どうやって作ったのか全く分からない!こんな服を量産するなんて、どれ程の文明か想像もできないよ!」


 ツォンは一気にまくしたてる。爬虫類の様な目の、小さな瞳孔が目一杯開いていた。


 やっぱりそれ、俺のか・・。もう雷でボロボロだから要らないけど。


「その服はスーツと申しまして、私の世界では、男性の一般的な仕事着です。細かい製法は知りませんが、機械で繊維を編み込んでいるはずです」


「機械!自ら動く鉄だろう!?しかも、魔力無しで!こんな物まで作れるとは・・ヒジョーーに興味深い!くぅ~見てみたいなぁ。異世界。アルデフロー君、替わってくれないかなぁ。同じ課長だし、何とかならないかなぁ」


 そう、彼は7課の課長である。暫く俺に背を向けてぶつぶつ呟いていたツォン課長は、ハッと振り返り話し出した。


「いや~、ゴメンゴメン。異世界の事となると、つい夢中になっちゃってね。申し訳ないけど、後で時間をくれないかなぁ?多少長くなるかもしれないけど……」


 ツォン課長は、チラッと上目でこちらを伺っている。


「わ、分かりました。お答えできる事であれば、何なりと。ところで、今日は……」


 俺が話を戻そうとすると、ツォン課長の顔がまたズズイッと近づいてくる。


「本当かい!?絶対だよ?いや~聞きたい事が山程あって……ウフフフフ。……あっ、ゴメン!エッグを捕まえたいんだったね?勿論協力させて貰うよ。コレを使うといい」


 ツォンはそう言うと、栓をされた小瓶を手渡してきた。


「これは?」


「それは『勇者封じの小瓶』と言ってね、栓を抜いて勇者に向けると、聖力を吸い取ってくれる優れ物なのさっ」


 ツォンが「ドヤッ」と胸を張る。


「そ、そんな強力な魔道具があるんですか!流石は7課ですね」


「ウフフフフ。照れちゃうなぁ。……まぁ、まだ問題があるから試作品なんだけどね」


「問題?」


「吸い取れる聖力の容量に限界があってねぇ……それ以上吸い取ろうとすると、壊れちゃう」


 なぬっ。


「どの位の相手であれば小瓶を使えるんでしょうか?」


「うーん、そうだねぇ。C級下位の英雄一人分くらいかなぁ?ま、相手がエッグなら問題無いさっ」


 ツォン課長は爽やかな笑顔でそう言う。


 それって『勇者』は封じられないんじゃ……まぁ、魔族最大の敵がそう簡単に倒せる訳ないか。


「では、エッグにこれを向けて栓を抜けばいいんですね?」


「その通り!聖力が根こそぎ吸われれば、動けない程に脱力するはずだよ。丸一日は回復できないだろうね」


「分かりました。有難う御座います。しかし……今更ですが、まだ相手が本当にエッグか確証がないんです」


「おぉっと!それじゃあ確認してからだね。何せそいつは、一度栓を開けると1分程しか使えないから。そうだねー、ちょっと待ってて!」


 そう言ってツォン課長は小走りで自室の奥へ消える。暫く何かを漁る様な音が聞こえた後、少し息を切らした彼が帰ってきた。


「ふーっ、まさかあそこから出てくるなんて……いや~お待たせっ!これは『勇者の涙』といってね、とても貴重なアイテムなんだよ!今回は特別に君に貸そう!」


 ツォン課長は得意げに一枚の紙を高く掲げる。何かの紋章が描かれた、六角形の紙だ。


「『勇者の涙』ですか・・?」


「そう!この紙はね、勇者ととても親和性が高い素材で作られているんだ。だから勇者が近くにいると、紙が反応してその方向へ動くんだよ!」


 おおっ。これは使える。名前に違和感はあるが……。


「凄いアイテムですね。勇者の資質を持つエッグにも反応するということですね?」


「君は理解が早くて助かるよ!これでエッグかどうか確認してから小瓶を使うといい」


「わかりました。使わせて頂きます。それと……」


 これでエッグ捕獲に必要なアイテムは揃った。


 最後に……と、ツォン課長に名刺が欲しい旨を伝えると、彼は直ぐに俺の魔力測定を始めた。




 俺の魔力の測定結果は83だった。



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