第8話 確認

 石のおはじきをしていた子供。あの悪魔の子供にそっくり……というかそのものだ。


 しかし、そんなことがあるのか?魔族領のど真ん中、しかもエストの直ぐ側で遊んでいるなんて。それに、あの子供は魔力を使っていた。


 勘違いか?いや、しかし……


 俺の目は自然とリストの一点に集中する。


 報酬:320万マーク


 320万あれば、ネネリが手に入る。いや、それどころか、諦めていた獣人の少女も買えてしまう。


 現状、賞金首狙い以外手が無い。確認はしておこう。あくまで確認だ。


 俺は自分に言い聞かせながら、エストを後にした。


 悪魔の子供達が遊んでいた場所は、エストから歩いて5分もかからない、雑多な店が並ぶ通りだ。元々、何かの建屋が建っていたんだろう。そこだけ切り抜いた様な、ちょっとした空白地帯。


 そこに子供達はいた。まだ石を飛ばして遊んでいる。あの子供も、いる。やはり、リストの顔ロン・アンベルクと同じ様にしか見えない。何故誰も気付かない?


 確かに、魔力は感じる。


 勇者は魔力を使わない。彼らは聖力という魔力とは似て非なる力を持つ。それはエッグにおいても同様だ。魔力と聖力はその使い手であれば、互いにある程度感知できる。


 子供から感じるそれは、魔力そのものだ。


 眺めていても仕方ない。試してみるか。


 俺は意を決して彼らに近づいた。


「こんにちは。」


「あっ!さっきのおにーちゃん!」


 翼の子供が直ぐに返事をしてくれた。


「君達、いつもここで遊んでるの?」


「うん、そうだよ。でも、これもちょっと飽きてきちゃた」


 そう言って、ロン似の子供が石を飛ばす。


「そうか〜。じゃあ新しい遊び、教えようか?」


「え!なになに!?教えて!」


 子供達がわらわら寄ってくる。


「よーし、まずは……。」


 俺はまず、ジャンケンを教えた。ゲームをする時に便利だから最初に教えたんだが、これだけでも結構受けた。営業時代の気さくなトークが生きたぜ。


 次いで、あっち向いてホイ。ダルマさんが転んだをやってみる。反応は上々だ。更にゲームで勝った子供には露店で勝ったお菓子を与えた。餌付けは基本である。


 ちなみに、俺個人の全財産は、就職祝いとして会社から支給された10万マークがある。これは生活費に充てるので簡単には使えないが、仕方がない。先行投資だ。


「結構遊んだし、次で最後にしよう」


 日も暮れかけ、子供達の心も完全に掌握した様に思えたので、俺は踏み込むことにした。


「「えーー!」」


 子供達からブーイングが上がる。


 最後はかくれんぼだ。少し設定を弄るけど。


「この遊びは、ジャンケンで勝った子が魔王になって、隠れた敵を見つけるゲームだ。但し、魔王は敵を見つけたら必ずこう言うんだ」



「【勇者、みーつけた】ってね。」



「えー、なにそれー!勇者やりたくないー!」


「魔王やりたい!」


「僕がやる!」


「ジャンケンだろ!早くやろーぜ!」


「最初はグーだぞ?」


 子供達はノリノリだ。ロンに似た子供も他の子供達と同じ様に、早くゲームをしたそうだ。見た目に不自然なところは無い。


 しかし、俺はその魔力が僅かに揺らぐのを感じた。



「絶対だよー?」


「あぁ、同じ時間に来るよ。またね」


「「「ばいばーい!」」」


ゲームを終えると、明日また来ることを約束して子供達と別れた。




 自室に戻り、血成コーヒーを啜りながら考える。


 あの子供はエッグだ。どのような方法で化けているか分からないが、「勇者」という言葉が出た瞬間の魔力の揺らぎ。あれは動揺だ。

勿論、断定はできないが……。何か見極める方法はないのだろうか。


 しかし、仮にあの子供がエッグだとして、一体奴は何をしている?リストの備考には「姉を追って」とあったが、それが関係しているのだろうか?


 1人で考えていても埒があかない。困った時はアルデフロー先生、もとい課長だ。


 本来なら直属の上司のラウネー課長に相談すべきだが、彼女には今日怒られたばかりだ。機嫌の悪い上司に近づかないのはサラリーマンの鉄則である。




「魔力を偽装しているのかもしれないな」


 アルデフロー課長はことも無げにそう言った。


「魔力の偽装?そんな事ができるのですか?」


「特殊なアイテムを使えば可能だ。エストで身分証を提示するよう言われただろ?それは魔力解放では証明にならない、つまり魔力の偽装が可能だからだ」


「そんな理由が……。社内は魔力確認で部屋に入れるけど、それは大丈夫なのですか?」


「社内での魔力偽装はできない。その様な結界を施してある。それに、ここ(魔王軍)で魔力偽装を考える馬鹿はいない」


「なるほど。しかし、あの子供は街のど真ん中で魔力偽装していました。しかも近くにはエストもあります。一体何を考えているんでしょう?」


「さあな。そこまでは分からん。しかしわざわざエストの近くにいるんだ。何かの理由があるんだろう。情報収集かもしれない」


「姉に関する情報を集めているということですか。ありそうですね」


 なるほど、エッグが何故あそこに居たかについては不明な点は多いが、仮定はできた。


「彼を……捕らえることは可能ですか?」


「捕らえる……とは、まだ魔族になりきれていない様だな。しかし、同じことだ。捕らえれば、殺す事になる。例外はあるが」


「例外?」


「魔族へ堕ちることが出来る者は転生させる。勇者の資質は強力だからな。利用出来るものは何でも利用する。適応する者は極めて少ないが、そういった例外が存在する以上……捕らえる方法はある」


 転生?若しかして、俺も適応があったのか?ただ馬鹿げた詠唱に成功したわけじゃないのか?


 しかし、今聞きたいのはそんな事じゃない。


「どうやって捕らえるんでしょうか?」


 そう尋ねるとアルデフロー課長は一枚の紙を取り出した。


 紙にはアルデフロー課長の全身写真(にしか見えない)と名前、所属。そして「160」という数字が記載されていた。


「これは・・名刺?それにこの数字、魔力って書いてありますが……」


「これは私の所属を証明するものだ。そしてこの数字は私の魔力。つまり強さを表している。これを持って対勇者部7課へ行って来い。話は通しておく」


 名刺!あったのか!しかも、なんかコレ……格好良いぞ。俺も直ぐに作らねば。


 しかし、魔力160って強いのか?全くわからん。取り敢えず、言われた通り行ってみよう。 

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