第6話 報告
魔王軍が一つではないという衝撃の事実が明かされた。隠されていたわけじゃないけれども。
要約するとこうだ。この世界に魔王は6人いる。それぞれ軍を率いていて、魔族の中では第1〜6魔王軍と呼ばれている。
各々違う事業を管轄しており、共通するところは対勇者の組織持っていることだ。
依頼の斡旋所は「エスト」と呼ばれ、第1と第6の魔王軍が管理している。
因みに我が社は第3魔王軍ということになるようだ。魔王軍同士は敵対する事もあるが、基本的には不干渉。対勇者では結束することもあるらしい。
ここまで聞いて、少し反省する。確かに事前の情報収集が不足だった。幾ら状況に翻弄されていたとはいえ、軽率過ぎた。慎まねばならない。
「まずはエストでめぼしい依頼が無いか確認した方が良いですね」
「そうだな。それとギャンブルは止めておけ。元手を失えば解雇せざるをえないからな」
アルデフローは見透かしたかのようにそう言った。
「わかりました」
俺はアルデフローとの会話を終えると、ラウネー課長の部屋に向かった。部屋の前で、魔力を解放する。魔力のコントロールはアルデフローからレクチャー済みだ。
部屋の中から、呼応する様な魔力を感じ、部屋へ入った。
「ど、どうした?」
ラウネー課長は落ち着かない様子で、椅子に腰掛けながら脚を組み直す。やはり以前のことが尾を引いているのだろうか?
「業務進捗のご報告と、ご相談に上がりました」
「そんなことでわざわざ……お前はやはり変わっているな」
そうは言いながら、僅かに微笑んでいる様に見える。今日は機嫌が良いのかもしれない。
これ幸いと話を切り出す。自費で奴隷を買いたい旨伝えると、直ぐに質問が飛んだ。
「その奴隷は……女か?」
「え?あ、はい。リリムの女です」
するとラウネー課長はみるみる眉間を寄せ始め、不機嫌を露わにする。
あれ?何か不味かったか?
重い沈黙が流れたあと
「好きにしろっ!」
彼女は吐き捨てるようにそう言うと、俺は部屋を追い出された。
何か怒らせてしまったが……報告は済んだ。これで後顧の憂はないだろう。
俺は再び街へ戻った。エストに向かう為だ。
雑踏を歩いていると、何処からか飛んできた石が靴にあたる。
なんだ?と思って石の飛んでき方を見ると、悪魔の子供が2人、気まずそうにこちらを伺っていた。明らかに悪魔とわかる外見の子供と、人の体に角と尻尾をつけた様にしか見えない子供だ。
石を飛ばしたのは彼等のようだ。良く見ると、その後ろでは魔族の子供達が飛ばした石で他の石を弾いて遊んでいる。
子供は外見が違っても仲良くできるのか。小さな差異が直ぐにイジメになる元の世界の方が魔界かもしれない。
俺は石を拾い上げて、怯む子供の手に返した。
子供はパッと表情を変え、
「ありがと!おにーちゃん!」
そう言って仲間の所へ駆けて行った。
ふーむ、魔族の子供の間ではあんな遊びが流行ってるのか。人族と変わらないな。おはじきみたいだし。
……石の動かし方は大分違うけど。
子供達は魔力を使っているのだろうか、石に触れずにピュンピュン飛ばしている。子供でもあんな事ができるのか……。
アルデフローとの会話が思い返される。
「私が弱いのは理解しましたが、何か使えるスキルとか特殊能力は無いのですか?」
「あるさ」
アルデフローはサラリと言う。
だよね!異世界で雑魚とか誰得だもんね!
「それは一体?」
「歯だ」
「は?」
「最硬の歯だ。お前の歯はどんな魔族の肉も噛み千切れるだろう。転生後に調べたから間違いない」
「……他には?」
「ない。強いて言えば吸血鬼相応の生命力があるな。多少の傷は再生する」
微妙過ぎる。丈夫なのは結構だが、攻撃手段がない。歯じゃ無理だろ……。
現実は厳しい。異世界転生は俺にはデレないみたいだ。
物思いに耽っていると、子供達の笑い声が聞こえ、我にかえる。悪魔とは思えない無邪気さだ。
俺は沈んだ気持ちが少しだけ和らいだ様な、そんな気がした。
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