第4話 経費で奴隷購入

 俺は襟えりを正し、アルデフローに向き直った。


「どうした?急に畏かしこまって」


「今まで大変無礼な態度で申し訳ありませんでした。外見がガキ……少年のようでしたので思いもよらず、失礼致しました」


「ふっ、今更だ。それにここはお前の部屋。つまり《ぷらいべーと》というやつだろう?」


 くっ、なんて度量のでかい奴だ。まさか捜し求めていた理想の上司がこんな所にいたとは……。危うく「アルデフローさまぁ!」なんて声に出そうだったよ。


「ところで、お前は課長代理に任命された訳だが現時点で部下がいない」


「えぇ、いきなり来たのだから当然でしょうね」


 それはそうだろう。あの日俺が転生するなんてそれこそ神のみぞ知る事だ。


「そこで、だ。まずは自分の部下を奴隷から見繕え」


 ……マジで?


「ほ、本当に宜しいので?」


 元の世界では散々部下に苦労した俺である。それは神のお告げにも等しい提案だった。


「あぁ、社長の許可はとってある」


「ア、アルデフローさまぁ!」


 有難うございますっ!!ホント〜にできたお方やで!そういうことならノンビリ構えているわけにはいかない。すぐにでも奴隷を買いに行きたい。


 ん?買う?


「アルデフロー様、支払いはどの様に?」


「金は勿論会社から出そう。予算は100万マークだ」


 マーク?魔族の通貨単位か。しかし、100万の価値がわからない。


 アルデフローの話によると、魔族1匹が1ヶ月過ごすのに約10万マーク程必要らしい。因みに俺の初任給は15万マーク。


 給料……安くね?


 仮にも会社(しかも元は魔王軍)の管理職がこの給料では、余りに夢がない。ベースアップや昇給はどうなっているんだ。


 アルデフロー曰く、魔王軍は成果報酬型だったようで、そこは変わらないようだ。人事部であれば優秀な者を獲得するとボーナスが出るということか。


 他にも聞きたいことはあるが、今はそんなことより早く奴隷を見てみたい。街に出よう。


 俺はアルデフローに感謝を告げてその場を辞した。







 魔族の街は雑多というか……ゴミゴミしてた。高さも色合いも統一性の無い建屋が立ち並ぶ。通りの半分のスペースは露天で埋まり、威勢の良い掛け声が飛び交う。その狭い道を多種多様な魔族達が行き交う様は、何も知らない人間を連れて来たら腰を抜かすだろう。


 今は気味悪いが、いつかは俺も魔族としてこの場所に違和感を感じることが無くなるのだろうか?その時は、丸の内を颯爽と歩くリーマンの如くこの街を闊歩していることだろう。行ったことないけどな……丸の内。


 しばらく行くと目的の奴隷市場に着いた。


 さぁ始めようか。俺の華麗なる奴隷購入劇を。


 まず、条件を確認しよう。


 ①予算は100万マーク。これは絶対。1マークも超えることはできない。


 ②女(或いは雌)であること。これも絶対だ。仕事をする上で、男にはできない発想や、細やかな気配りが必要なことは多々ある。対勇者部に送るのであれば話しは別だが、自分の部下に求めるのはそういうところだ。やましい気持ち等は一切ない。


 もし元の世界であったら、女なんてセクハラ認定されることが怖くて、まともに話せないから選ばないだろう。しかし、異世界の奴隷ならば話しは別。あんなことや、こんなことを命令してもセクハラはおろか、絶対服従だ。くふふふ。繰り返すが、やましい気持ちは一切ない。


 ③容姿。美しい、または可愛いことが求められる。これも絶対だな。理由?説明する必要ある?


 ④能力。強い、または特殊な能力があることが好ましい。まぁこれは割とどうでもいいな。


 以上が大まかな条件だ。並べみると、ただ可愛い女を買いに来たように思えるが、決してそうではない。全ては会社の発展の為。


 俺はゆっくりした足取りで奴隷市場を歩く。しかし、その眼は忙しなく動かす。眼光は鋭い。その姿はまさにその道30年の目利き。1人も見逃さないと意思が込められている。


 暫く歩いて気付く。ここにいる奴隷は殆ど人型だ。中にはよく分からない者もいるが、大体が人に、獣や魔物をミックスした様な姿をしている。


 人と親しくした者が奴隷となる……それが影響しているのであろう。勿論、普通に街を歩いている人型も大勢いるのだが、混血は奴隷となりやすい環境のようだ。


 粗方見て回って候補を2人に絞った。


 1人目は獣人。ネコ科を思わせる耳と尻尾、くりっとした大きな目が可愛い少女だ。価格は55万マーク。


 2人目はラミア。ぱっと見は人にしか見えないが、顔を除く肌には薄く鱗の様な紋様が見える。ゆるふわな長い金髪に、笑顔が素敵な癒し系お姉さんだ。価格は70万マーク。


 2人共タイプが異なる可愛いさがあり、甲乙つけ難い。能力?細けぇことは良いんだよ!


 ……さてどうしよう。


 奴隷市場の中央で、俺は長考に入った。行き交う魔族共が邪魔臭そうな目で横を通り抜けていく。しかしそんな事は気にはならない。何故ならば今の俺は羽○名人が如き集中力を発揮し、脳を高速回転させているからだ。


 ぱっちりお目めの快活そうな美少女と、ゆるふわ美人のおっとり系お姉さん。なんだこの究極の2択は。こんなに悩むのはドラ◯エⅤ以来かもしれない。


 落ち着け。落ち着いて互いの長所を検討し、比較するのだ。


 仕事とは日々、単調な作業になりがちだ。同じ作業の繰り返しの中で、無気力になる者も多い。そんな中で、この獣人の少女の笑顔と溢れる活力は、仕事へのモチベーションとなるに違いない。


 仕事とは時に辛く、厳しいものだ。この先幾つもの失敗が俺を待っているだろう。そんな中で、このラミアのお姉さんがもたらす癒しは、まさに砂漠のオアシス。疲れきった俺に潤いを与えてくれるのは確定的に明らか。


 ……。


 あぁ、選べない!


 神よ!いや、魔王よ!何故俺にこの様な過酷な選択を迫るのだ!救いはないのか!いや、ある。全てを解決する方法が!


 魔王よ!俺に救いを!


 具体的に言うと、あと25万マーク出せ!


 そう、あと25万マークあれば2人共買える。あと、25万……あと25万……。


 くそっ!金っ!金が欲しい!


 まさか異世界でこんなに金に困るとは……。




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