【外伝】被害者の会・新田優日


 はじめまして、こんばんわ! 

 私は新田優日。どこにでもいる普通の中学3年生の女の子です。

 今日は高校受験の当日……でした。ほんっと大変でしたよ。終始ピリピリとした空気が蔓延した試験会場で、息が詰まってしまうかと思いました。だけれどテスト自体は上手くいった手応えがあるので、4月には私も高校生になれそうでした。

 そう! 春から私も高校生! 

 もう子供なんて言わせません。アルバイトして、好きな洋服を好きなだけ買って、好きなスイーツを好きなだけ食べて……門限に悩まされずに友達と遊べる予定だったんです。大人ですし、出来ますよね。

 他にも他にも、夢多き乙女なんです。

 将来に希望あふれる私のサクセスストーリーがあったんです。 


 え? どうしていきなり自己紹介を始めたのかって? それには海よりも深いわけがあるんです。ちなみに海の底って、人類未踏の地らしいですね。つまりそれくらい深い理由です。


 私、死んじゃったみたいです。


 突然ごめんなさい。

 でも、どうやら死んでいるっていうのは間違いないみたいなんです。

 それもこれも、全部受験の帰り道のお話です。

 交差点を渡っている男の子に、赤信号を無視した大型のトラックが突っ込もうとしていたんですよね。それを見た私の体が、勝手に動いたんです。助けなきゃって。普段はそんなことしないんだけど、受験で疲れていたのかな。何にしても、私は男の子を突き飛ばしたんです。それでね、代わりに私が轢かれちゃったんですよね。馬鹿ですよね。自分が死んじゃったら何の意味もないじゃないですか。

 だけど、薄れゆく視界の端で、突き飛ばした男の子が無事なのを確認出来たので、最後にいいことが出来たのかな? なんて言っても、何の慰めにもなりません。なんで私がこんな目にって気分です。


 けれど、そもそもここはどこなのでしょうか?

 死んだらしいっていう実感は何故だかあるのに、真っ白な空間に私の体だけが浮かんでいます。浮かんでいるというか、地面が真っ白過ぎて立っている感覚が無いんですよね。フワフワしてるっていうか、そんな感じです。


 ん?

 遠くの方で話し声が聞こえます。

 こんな何もないところにも、誰か人がいるのでしょうか? ちょっと行ってみましょう。

 おっと、やっぱり誰かいます。

 金髪で可愛らしい女の子。まるで天使のような愛らしさで、私の方を見ています。


 「やぁ、はじめまして! 死んでみた気分はどうだい?」


 ガーン。

 可愛い声で、とんでもない事を言われてしまいました。直感で分かってたとはいえ、他人の口からそう聞かされると真実なんだと衝撃が凄いです……。


 「やっぱり私……死んじゃったんですね」


 「あぁ、本堂星翔君。君は不幸にも交差点でトラックに轢かれて死亡した」


 この言い方、この雰囲気。

 もしかして神様なのでしょうか。死んで神のみもとへってやつでしょうか。天使もとい女神様なのでしょうか?

 それにしても……本堂星翔君? 


 「あの、私……新田優日なんですけど」


 「え"っ!?」


 神様でも勘違いするときがあるのでしょうか? 詳しいことはわかりませんが、突然椅子の裏から出てきた男の人と女神様がヒソヒソと話しています。なにやら相当焦っているようで、どんどん声がヒートアップしてきました。


 「まさか……間違った人を……じゃないよね?」


 女神様がそう言ったのを聞いて、ハッとしました。もしかして、女神様は男の子を連れてこようとしていたのでしょうか?


 「あの……もしかしたら私が男の子を助けようとしたせいかも。トラックに轢かれそうだった男の子を突き飛ばしてから記憶ないし……」

 

 しまったという表情をする女神様と男の人。やっぱり私、間違えられたということでしょうか。けれどここってこの世じゃ無いですよね。あの世っぽいですよね?


 「あの、ここがあの世って場所ですか?」


 「え、いやここは天上界だよ。でも死んだことは悲しまないでくれ! 君の類稀なる才能のおかげで、人生をもう一度始められることになったんだ。どうだい? もう一度人生をやり直しては見ないかい?」


 女神様は、突然早口で捲し立ててきましたが、要約するとこうでしょう。


 「私、死ぬ前の世界に戻れるんですか!?」


 人生をやり直せるらしいです! しかも才能があるらしいんです! 神様のお墨付きですよ!? このまま生き返れば、受験も合格しているくらい出来てますよね!


 「あーうん。生き返れるんだ!」


 女神様は笑顔でサムズアップしています。これは間違いない。なら私に迷う選択肢はないですね。1択です。


 「私! 生き返りたいです!」


 まだまだやりたい事が山ほどあるんです。こんなあっさり死んでいてはたまりません。


 「よーし決まりだ! さっさと飛ばしちゃおうか!」


 可愛らしい女神様は、言うやいなや魔法の杖を取り出して構えました。そうしてからトンと白い地面を突くと、魔法陣のような紋様が一面に広がります。すごい! 本当に女神様です! 魔法少女みたいです!!


 「すごい……魔法みたい!」


 思わず感嘆が漏れましたが、本当に感動しています! これが見られたから、今回の一件も悪くなかったのかなって気分です。 


 「では、良い転生ライフを!」


 女神様の掛け声を最後に、私の体は真っ白な光に包まれて、天上界を後にしました。

 あっという間で夢のようだったけど、とても面白い体験をしちゃいました。また友達に話してみよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして、ゆっくりと視界が開けていくと……、


 「え……? どこよここ」


 見たことも無いところに立っていました。え? もとの場所に帰れるんじゃありませんでしたっけ?

 それになんだか、中華系の街っぽいですが、ワニのような頭の人や馬のような体の人とかが至るところに歩いているんです。え? どうゆうことでしょう。もしかして夢の続き?


 「ゆ、夢なら覚めて……」


 ほっぺをつまんでも、パシパシと叩いてみても一向に覚めません。ウソでしょ? 


 「こういう夢は趣味じゃないのよ」


 何がどうなっているのかさっぱりわかりません。海外だとも思えないファンタジーな世界が広がっています。

 

 「なぁお嬢ちゃん。こんな道のど真ん中で突っ立ってどうした? 迷子か?」


 「ひっ!?」


 突然話しかけてきたのは、大柄の狼顔の青年でした。やばい怖い!! なにここ!? だけど話さないほうが怖い。無視したら殺されそう。


 「ここは……何処ですか?」


 「帝都シンシャオランだ。聞いたことくらいあるだろう?」 


 ないないない! そんな地名聞いたことない! というか狼顔の人が存在するなんて聞いてない! 

 もう一度言うわ……夢なら覚めて。ぎゅっと目を瞑って、深呼吸してから目を開く。そして変わらない景色。そりゃ絶叫も出ますよ。

 

 「なんなのよこれぇぇぇ!!!」


 帝都の空に、絶叫がこだました。



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 私が異世界転生したと気がついてから異世界ライフを始めるのは、もう少しあとの事です。

 


 

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