《転生誘導用必殺黒猫》Typeω
「わはは、京平‼ 見てくれついにボクは手に入れたぞ‼」
転生用トラックを整備していた京平のもとに、金髪でロリでついでに言うとちょっとアホな女神がサンダルをペタペタ鳴らしながら走ってきた。
「ん? なんだその貧相な胸に抱えている毛玉は?」
「なぁ京平。前々から思ってたんだけどボクに対する敬意が足りなくないかい!? それに、この完璧なプロポーションのどこが貧相なのさ。ボクは女神だよ?体を構成する全てが黄金比に決まっているじゃないか!」
「じゃあその残念な発想にいたる頭も完璧だと言いたいのか? 謝れ! ボンキュッボンなグラマラスでナイスバディで思慮深く、俺に優しくしてくれる銀髪褐色のふわふわ女神様に謝れ!」
彼女こそが俺の女神なのだと、京平は熱弁する。すると騒ぐのはいつもロリ女神だった。
「わあああ!! 京平が言ってはならないことを言った! って言うかなにさ『俺に優しくしてくれる(キリッ』って! これだから童貞はダメなんだ」
「キリッなんて言ってねぇよ! 童貞って言うな! それにその通りだろ。アホ女神はいっつも【始まりの地】でふんぞり返って俺に指示出すばかりじゃないか。ちょっとは汗水垂らして働く現場にご褒美とかくれても良いんじゃないか?」
「チッチッチ、甘いね京平」
何が甘いのか話の流れからも全然分からないのだが、ロリ女神は突然偉そうに腰をおろしてドヤ顔してきた。ロリ女神よ、貴女が座ったのは水入りバケツなのだが本当にそれで良いのか?
「マシュマロよりもずっと甘い! ボクの腕の中にいるコイツが目に入らないのかい? 京平の為を思って天界から借りてきたと言うのに、もしかしていらないのか〜い?」
椅子のことなど構わないらしい。ロリ女神は黒い毛玉を胸に抱き、気持ち良さそうに撫で回している。
そんなにロリ女神がドヤ顔するものだから、京平も何かあると察して身構えた。ここでロリ女神に逆らっては、自分自身が不利益を被ると実体験で知っている。
「もしかして……猫か? またどうしてそんな動物が天界にいるんだよ。それに俺のためって」
よく目を凝らしてみると、黒い毛玉からは耳と尻尾が生えていた。黒猫だ。ロリ女神が黒猫を撫で回している。微笑ましい光景だが、口に出すと子供扱いするなと言われるので女神心は難しい。
それはさておき、驚く京平にロリ女神は気分を良くしたのか、黒猫を見せつけるように持ち上げて説明しだした。
「そう! 黒猫さ。しかもただの黒猫じゃないんだ。コイツは天界特製の《転生誘導用必殺黒猫Typeω》って言って、転生させるときに使用すると、転生させるのがグッと楽になるお助けアイテムなのさ!」
「転生お助けアイテム!?」
「そう! 今京平がせっせと磨いてるトラックと相性が抜群でねぇ。例えばこの黒猫を路上に設置し、対象の転生予定者の注意を引くんだ。トラックに轢かれそうになる黒猫、助けるために飛び出す少年……そこをドカーンってすれば、一丁上がりって寸法さ。それにこの黒猫は轢かれた程度じゃ壊れない。完全に転生誘導に特化した天界イチオシの1品さ」
つまり、黒猫を囮にして心優しき少年少女を轢きk……転生させるという事だ。
「えげつねぇ。だけど確かに便利そうだ。中々路上に出てこなかったりやけに注意力の高かったりする人間はそこそこいるから、黒猫で気を引けるなら多少は楽になりそうだ」
京平はありがたく黒猫を頂戴することにする。壊れるとか何とか言っていたから、機械か何かなのだろう。本物では無いらしい。それなら心が痛まなくて済む。
しかしロリ女神は黒猫を抱き寄せるようにして京平から遠ざける。
「渡すつもりで持ってきたからそれに関しては良いんだけど、こうして京平のこともちゃんと考えてあげている麗しき女神様に言うことがあるんじゃないかい?」
確かにその通りだ。まだお礼をしていない。親しき中にも礼儀ありだ。数分前の
「ありがとうロリ女神! ありがたく使わせてもらう」
「……あのねぇ、ボクを馬鹿にしたことを謝って欲しいんだけど。京平は乙女の心に傷を付けたってことちゃんと分かってる?」
ロリ女神にジトっとした目を向けられて、京平はうっとたじろく。散々言ったことが記憶の海から帰ってきた。
京平は頭を下げて謝罪する。
「すまない。身体的特徴を挙げて馬鹿にするのはダメだよな」
「ふふん、分かれば良いんだよ。じゃあ早速だけど、この黒猫Typeωを使って転生者を連れてきてよ。それで今回のことは許してあげよう。ボクは寛大だからね」
「ありがとう。トラックの整備が終わり次第下界に向かうよ」
「任せたぞ〜」
金髪ロリ女神は京平の返事を聞くと黒猫を置いて、またどこかに出かけて行った。
***
「さっそく使ってみるか」
地上にやってきた京平は、ロリ女神から支給された黒猫Typeωを抱えて転生決行場所を検討していた。ロリ女神の話や名前から考えるに、転生者を誘導できるのだろう。
しかしどうやって設定するのか。無差別に転生させたいわけじゃない。ピンポイントでターゲットだけを狙い撃ちしたいものだ。
仕様書を寄越さなかったロリ女神に内心で講義しつつ、取り敢えず声を掛けてみることにした。
「おい、お前はどうやって使えば良いんだ? 勝手に俺の意思を汲んでくれるなら楽なんだが……」
返事はない。
そりゃそうだ、猫なんだから。天界製だからって期待しすぎた。というか猫にしか見えない。
「まさかタダの野良猫じゃねぇよな。これじゃあ仕事を始められないぞ」
返事はない。
意思疎通の機能が無いだけかも……こちらが一方的に命令すれば、すぐさま行動するとかそう言うタイプだろうか。
しかし京平の期待を裏切って、黒猫は呑気に欠伸した。
「あのアホ女神っ!! その辺で拾ってきた野良猫を押し付けてきたのか!? うそ、まさかいくら何でもそこまでアホ女神はアホじゃないと信じたいんだけど……」
この世の理不尽に頭を抱える京平。
これでは猫の散歩ではないか。帰ったらアホ女神に1言言ってやらねばならない。謝ってもらおうと心に誓う。今度は権力に屈しない!
こんな風に京平が怒りに燃えていると、欠伸をしていた黒猫かふと京平を見た。
「騒がしいぞ小僧」
「へ?」
「久々の起動で多少時間が掛かった程度で騒ぐなと言ったのだ。仕事なのだろう? ターゲットは何処だ、完璧に誘導してみせよう」
渋いオジサマボイスが黒猫から聞こえてきた。その言葉には貫禄がある。先程までタダの猫だったのに、今では歴戦の戦士を彷彿とさせる立ち振る舞いであった。
「え、あぁ……今回のターゲットは駅前にいる14歳の少年です」
何故か敬語になっていた。
「(だってこの黒猫、凄い偉いオーラ出てるし! カリスマ感じるんだけど! どこかの世界で英雄やってたとかあるんじゃないの!?)」と京平は戦慄する。
戦慄しながらも、転生予定者のプロフィールや行動ルートなどをメモしたを黒猫に見せた。オジサマ声の黒猫が見せろと指図してきたのだ。見た目は可愛いのに中身がこれだから、可愛らしい肉球のぷにぷにも何だか触れにくい。
「良かろう、この仕事請け負った。小僧は気楽にトラックとやらを走らせるといい。我輩が丁寧にエスコートしてやろう」
喋る猫は、一人称を我輩にしないといけないとか言う決まりがあるのだろうか。名前はまだ無いで有名な猫も、我輩だった気がする。
ともかく仕事は順調に行きそうで京平は安心した。転生の決行場所を相談して決めてから、京平はトラックを取りに行く。あとは打ち合わせ通りの時間に、打ち合わせ通りの道をノンストップで走るだけ。
「なんて簡単な仕事なんだ!」
乗り込んだトラックで、気分よくアクセルを踏む。駅前の交差点はほど近い。
交差点が視界に入ると、黒猫Typeωがこちらにアイコンタクトを送ってきた。準備は出来ているのだろう。頼りになりすぎる。
黒猫Typeωは、トラックが加速しているのを確認してからフラッと路上に飛び出した。一見自殺行為。だがそれが黒猫Typeωの役割である。そして黒猫Typeωの思惑通り、一人の少年が後を追う様にして無防備に飛び出してきた。間違いない、ターゲットだ。
「ひゅう! ここまで上手く行くもんなんだな!」
黒猫Typeωはトラックの直線上で立ち止まり、庇護欲をそそる目で少年の方を振り返った。中身がオジサマボイスだと知らなければ、京平とて平常心でアクセルは踏めなかっただろう。あの瞳はズルい。
そして仕事は完了する。
トラックが衝突する直前に、黒猫Typeωはスルリと身を躱し助手席の窓から車内に入ってくる。華麗すぎる身のこなし、プロの仕事であった。
「ご苦労。魂が天界へ登ったのは我輩が確認した。長居は無用だ、早々に帰るとしよう」
「こちらこそ滅茶苦茶頼りになったよ。ありがとう。帰ってから聞きたいことがたくさんあるんだ、少し付き合ってくれないか?」
「よかろう。あの聡い女神の許しを得てからなら、いくらでも付き合ってやる」
聡い女神? と京平は首を傾げるが、何にせよ仕事も終えたしこの後の約束も取り付けた。今日は実に平和な1日だったので、帰ったらもう一度ちゃんとロリ女神に礼を言おうと心に決めて、京平は気分よく天界へと帰還した。
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