精霊戦姫メセルスノウェム Re:animated / Last out the Vengeance

宗谷織衛

一章 繋いだ手は腐り落ち

エピローグ 麗躍、砂塵に散る



 多くの精霊様方に、加護と叡智を授けられて。

 大いなる祖霊様の力を借りて、みんなを守る戦士となって。


 喧嘩もしたけど、みんな仲は良くて。

 危険もあったけど、どうにか今まで勝ち続けて。

 青春と、恋模様と、強敵と、守るべき人たち。


 かつて失った七色よりずっと、綺麗な色と出会えたから。

 私は青。青のエッジール。麗躍九姫の青の戦士。

 赤と黒の、一番の親友。


 ――それだけで満たされていた。



 けれど、得たのならば、失うこともある。


 私たちは、それを知らなすぎた。







「見るに耐えぬ贋作には、疾く退場してもらおう」


 悪魔は剣を振り上げた。


「貴様で最後だ、青の娘メセルスクエル


 エッジールは、潰れた瞳で辛うじてそれを見た。





 ――後輩かばって死ねるんだ、そいつぁ戦士の誉れだろうよ……。


「ルカーリュ姉さん」


 ――ゆきなさい、皆。きっと、勝てますから。


「カロルハーク、姉さん……」


 ――あー、もーちょこっと粘れるかなと……思ったけど……。


「シャルセ……」


 ――やだ、やだ……しにたくな――。


「……ミュー、ネラ」


 ――……私の鏃が砕けても、この一矢は、皆のために!


「ラティニス」


 ――億の剣のペリクタージェの名にかけて……友の、仇をッ!


「ハルマスラ」


 ――エッジール。私に出来たのは、ここまでだったよ……。


「エメルザ……」




 ――ごめんね、ジル。




 わたし、約束、守れないね。




「ウィルエラ……」




 荒涼たる大地に砂のヴェールが折り重なる。

 吹き付ける砂塵はいつしか嵐となり、悪魔の足音は遥か遠くに消えた。

 砂漠を抉った刃の痕跡も、穿たれたクレーターも、流した血も、涙も、全てが砂に埋もれて消えていく。


 エッジールは見た。


 砂に埋もれていく、燃えるような赤い髪を。



「ウィル、エラ」



 声は出ない。喉がない。

 手は伸びない。腕がない。

 這い寄ることも出来はしない。胴から下が既にない。

 それはもう、肉塊とも呼べぬ何かだった。

 メセルスによって辛うじて思考を残すだけの死体であった。


 祖霊の加護が、翳された死の神ハザーリャの手を押しとどめている。

 血が失われていく。大いなる白色九祖の力が死を引き延ばす。

 えぐられた瞳の代わりに、目を意味する孔雀の羽根が視野を代替する。

 残されたはずの思考は殆ど真っ白であった。


 埋もれていく。

 砂の向こうに。

 愛した人が。



「ウィル……エラ……」



 声はない。

 潰れた喉の代わりに、魂だけが虚ろに震えていた。


 砂塵が全てを覆い隠す。

 鮮やかだった九色が、時に蝕まれるように、ざらざらと褪せていく。



 恨みが募り、炎となり、砂風がそれをさらっていく。

 吹き消された意識の篝火は、もう二度と灯ることはないだろう。



 心を奮い立たせる。砂塵がそれをさらっていく。

 時が止まったかのようにゆっくりと。

 磨り減っていくのを、伏して見ている。




 ――ウィルエラ。


 私も、すぐに行くから。




 そうして、【麗躍九姫メセルスノウェム】は全滅した。




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