アイスケーキと星のおまもり

「桃子ー」

ままに呼ばれて、廊下を走る。

リビングに顔を出すとままが、はいっとある物を手渡してくれた。

「前お願いされた小袋ってこれで良いの?」

渡された袋をみる。

紺地に小さな星型のワッペン。

上の部分で閉じられた口は紐で縛られ、そのまま長い輪っかになっていた。

「うん。ありがとう」

お礼を言って部屋を出ようとするわたしにままは興味深げに聞いてきた。

「何入れるの」

「宝物」

わたしの宝物という言葉にままが反応する。

「へー見せてよ」

「駄目」

 素っ気なく言ってリビングを出た。

中身を見られたら、捨てられちゃうかもしれない。

安全な二階に移動し、周りを確認する。

よし大丈夫だ。

宝物をポッケから出した。

 婦人の最後の贈り物。飴玉の包みは私にとっては宝物だった。

透明なフィルムは四隅に星が煌めき、線が星を繋ぐ。

取りだした包みを綺麗に折ると全ての星が重なった。

うん、上出来。

小袋の口を開いて、優しく入れる。

ぎゅっと口を閉じたら、お守り完成。

大事に大事に一撫でしてから、首に掛ける。これで失くさない。

 婦人とのお茶会は日が立つ事に薄れ、綿あめみたいに頭から溶け出てしまう。

初心を忘れない為にも、何か形に残る物が欲しかった。


 初心、という事であればもう一つ気になる事がある。

私の元の家だ。

もしかしたら、もう出来ているのではないだろうか。

あのマンションは私が七歳の時に建ったはずだ。

文明レベルの進んだここならもう有ってもおかしくない。

私が入居したのはマンションが出来てすぐだったから、もしかしたら____

淡い期待に胸が躍った。

 だけれど、肝心の検索手段がない。

この家にはパソコンは無いし、携帯も触らせてもらえない。

ままはわたしに携帯を渡したくないのだ。子供の内からネットに染まってほしくないらしい。

ままの教育方針の元、我が家の子供は電子機器禁止。

使って良いのは家電とぱぱが買ってきたゲーム機ぐらいだ。

それもままは良い顔をしなかったけれど。

そんな有り様なのだから、ままの目を盗んで見るとしたら大分骨が折れそうだ。

 しかし希望が無い訳でも無い。

この前テレビで住宅地図というものを知った。

なんでも指定の地区が乗ったもので一戸建てなら名前まで分かるらしい。

何て素敵な魔法の紙か!

 でも、お高いんでしょう?

通販の出演者よろしく、呟くわたしをままが引いた目で見ていたのは忘れられない。

お値段……。

ドーン!

 とても子供の買える値段ではなかった。

くっそう!

心の中で毒づいて頭を抱える。

本気で悔しがるわたしに同情したままは翌日そっと日本地図を差し出した。

違うこれじゃない。

そう思ったけど、勿体ないので穴が開くほど見ておいた。

少し賢くなったものの目的の地図は手に入りそうにない。

 やっぱり小学生になるまで我慢するしかないのかな。

学校に通い出せば自然機械をいじれるチャンスも来るとは思う……。

只それまでの期間がとても長く感じた。

近い内に図書館に行こう。

地図は図書館にもある。

ぬかりなく準備を整えるのだ。私は勢いよく部屋をとびだし階段をかけ下りた。

とんとんとんとん。

「ままー図書館って何処にあるのー」

結局子供がものを調べるには親の力が必要である。

本当、子供って不便だわ。




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