アイスクリームと糸電話

リビングの真ん中。

大きなソファーの前、私は考えていた。 

ここに一枚の紙が有る。

時刻は五時過ぎ、メモを睨みつけ最善を考える。

 ままは夕飯の支度を始め、蛍はぐうぐう寝ていた。

今週にするか、来週にするか・・・・・・。

深月くんとの約束を果たすべく連絡を取ろうと思ったものの、いざとなるとボタンを押す手は動かなかった。

来週にしよう。

子機を握りしめやっと決める。

先週の失敗もある。連続で予定を入れるのは避けるべきだ。

来週の日曜日、お暇ですか?

よしこれで行こう。

 改めて手の中のメモと向き直り、震える手でボタンを押した。

私は緊張すると手が震える。いつの間にか身に付いた悪癖はもう随分長い事人生を共にしている。

 紙の中の番号を押し、コールが鳴って電話がかかってしまった事を知る。

きっかり三コール目で相手の声に切り替わった。

「はい」

「あ、あの三橋ですが」

「三橋?」

やっぱり迷惑だったかな、それとも番号間違えたのかなと思い始めた頃ようやく相手からのアクションがあった。

「トウコか!」

 はい三橋桃子です。

「悪いな。最近教えてない奴らからかかってくる事多くてさ」

深月くんは何でもないように言っていたが、それって大丈夫なのと心配になった。

 だってそれ携帯の番号でしょ?

私の沈黙で察したのか、彼は大丈夫だと笑っていた。

本当に大丈夫なんですかね。

私の心配をよそに彼はそんなことよりと言葉を続けた。

 「本読み終わったのか?」

「うん、それでね。来週の日曜日、絵本を返しに行っても良いですか?」

「今週でも良いぞ」

 即答に声が詰まった。

君、本当に会った時から変わらないよね。

「えっと、出来れば来週が良いです」

「分かった。来週の十二時に家に来いよ」

「うん」

「さくらもその日は家に居るから」

「本当に!」

 嬉しさに声が弾む。さくらさんと会えるのが純粋に嬉しかった。

「お前さ」

嬉しさのあまり受話器越しの声の変化に気付かなかった。

「俺とさくらだと感じ変わるよな」

相手の言葉に身体が固まる。

それは・・・・・・。

否定できない。有ると思う。

「えっと、お姉さんのお友達はさくらさんが初めてだったから」

言い訳をして取りつくろうが、深月くんが余計に不機嫌になるのを感じた。

 まあ、あから様に態度に出てた私が悪いよね。

ごめん深月くん。

「別にいいけど。お前男の友達とか居るのな」

居ない事も無いが深月くんほど、仲の良い訳でもない。

どう答えたものか。

うーんと頭を捻るが良い案は浮かばない。

 前から思っていたが、男の子と言うのは難しい。女の子と話すのとは、会話の感じが変わってしまう。

相手が今何を考えているか予測するのが難しいのだ。

「うん。少しだけだけど」

「ふーん」

何だろうこの空気。

分かった!あれだ。子供特有の仲良しは自分だけという焼きもちだ。

懐かしいな。わたしも子供の頃よくあった。

誰もが一度は通るのではないだろうか。私が一番だという誇らしい気持ちと小さな嫉妬心。

 随分古くなった記憶を思い出し、懐かしい気持ちで受話器を握る。

いつか蛍もこんな風に焼きもち焼いてくれる日が来るだろうか。楽しみだな。

ふふふっと一人記憶に浸っていると、電話口から声が聞こえた。

「じゃあ来週。必ず来いよ」

 がちゃん。

これは怒らせたな。完全に。

また失敗したと頭を抱え、紙袋の本を取る。

せめて次会う時位会話が弾むように、絵本を読み込んでおく事にした。

 

 誰かが言った。

女の子は素敵なもの一杯で出来ていると。

じゃあ男の子は?

男の子はきっと不思議で出来ている。

なぞなぞでらけの謎だらけ、わたしにはこの謎は難解過ぎるようだ。

男の子って本当に難しい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る