アイスクリームと魔女の服

「さようならー」

挨拶と共に沢山の園児がわらわらと帰って行く。

私はバス組なのでそのまま列にならんでバスに乗り込む。

 座席に付くと車内はクリスマスパーティーの話題で持ち切りだった。

僕はオオカミ人間だ。私は兎になるんだよっと皆口々に何になるのか言い合っている。

「桃子ちゃんは何にするの?」

わたしの隣に座ったえりかちゃんが嬉しそうに聞いてくる。

えりかちゃんお洋服好きだもんね。

「魔女にするの」

「え、魔女って真っ黒の魔女?」

わたしの答えに有り得ないという顔のえりかちゃんは青は?緑の方が良いんじゃないと世話を焼いてくれる。

 確かに緑の魔女や青の魔女はオズのキャラクターみたいで素敵だけど、私には黒の魔女が一番しっくりくる気がした。

「あのね、黒が好きなの」

と話すわたしにえりかちゃんは桃子ちゃんって変なのと、驚いていた。

 女の子はピンクとか好きだもんね。

バスに揺られながら、えりかちゃんの衣装はどんなだとか。あおいちゃんもお姫様なのよというような話をした。

わたしの降りる番の直前に本当に黒で良いのかと念おしするように聞かれ、笑って頷くのを忘れなかった。

 さて衣装は決まったが、作り手の良しが無ければ服は生まれない。

ままはわたしが良いなら、気にしないと思うけれど一応外堀は埋めておきたい。

 バスを降りて迎えてくれたままと蛍と一緒に五分程の家時を帰る。

「ねえ、桃子」

「何」

「お洋服は決まった?」

「うん」

「どんな服にしたの?」

「魔女」

わたしの答えを聞いた途端ままが吹き出した。何で笑うのって聞いたら。

「だって桃子らしくて。どうせ真っ黒な魔女なんでしょ?」

笑いながら楽しそうに言うままを見て大丈夫だと確信した。

 これでわたしは魔女決定。

家に帰って、着替えや手洗いをしたらお決まりの報告会。

わたしはおやつを食べて、ままは連絡帳に目を通す。これが三橋家の決まりである。

「先生何て?」

プリンを食べつつ聞くわたしにままはノートを閉じて向き直る。

「黒いお洋服は桃子だけになるかもしれないけど良いですかって」

ええ、存じ上げてますとも。

「魔女は黒が一番強そうでしょ」

事もなげに言うわたしにままもそうねと頷いて、何か上見て思案する。

「今週の土曜日家族でお出かけするから」

 その言葉を聞いてああそうだったなと思い出した。

先週深月くん達と立て続けで遊ぶ事になった事をしり、ぱぱは落胆した。

その時に元気付ける為今週は家族で出かけようと約束したのだった。

「何処行くの」

わたしの問いにままはふふんと鼻を鳴らし、桃子も好きな所よっと勿体つける。

「植物園?」

「違います」

「博物館?」

「ぶっぶー」

「動物園?」

「惜しい!」

「水族館だね」

「正解!!」

 長い問答の末辿りついた答えは、人口の竜宮城だった。

・・・・・・。

 私が言ったんじゃない。そういうコンセプトの水族館なのだ。

『現代の竜宮城。訪れたあなたの時間は止まる』

とか言う宣伝文句で売り出しているらしい。

「最近新しくなったらしくてね。まま前から行きたかったのよ」

ふーんとプリンを突っつきぷるぷるさせながら、聞いていたが気になる事がある。

「休日の予定と魔女の衣装は何のつながりが有るの?」

問いかけるわたしにままはふふんと笑った。

口元はにやりと歪み、面倒事が起きますよと告げている。

「土曜日迄に衣装の試作を作るから、着て頂戴ね」

 うっと言葉が詰まった。何も土曜日までに作らなくとも良いだろう。

「まま、まだ時間あるから」

「駄目よ。実際に着て動いてもらわないと、分からないじゃない」

 何が分からないと言うのだ。ディテールか?ディテールを拘りたいのか?

たかが園のクリスマス会にそこまで必要だろうか・・・・・・。

「大丈夫よ。元有るワンピースを改造するだけだから」

任せてと言う顔のままにそうじゃないよと伝えたが、あまり聞いてもらえない。

「大丈夫よ。帽子は後で作るから。」

だから、違うんだってば、まま。

 かくして私は休日賑わう水族館に似非魔女っ子として送り出される事となった。

どうやら私はわたしになってもついて無いらしい。


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