アイスクリームと小人の祭り

皆ー静かにしてくださーい」

春也先生の声で小さな小人たちは静まる。

「今日は皆にパーティで着る衣装をお絵かきしてもらいまーす」

パーティーか・・・・・・。 

 私が通う園ではハロウィーンとクリスマスパーティーを兼ねた物を十二月二十五日にする。

実質クリスマスパーティーなのだが仮装であれば何でも良いというのとお菓子が配られるという事もあって混ぜてしまったらしい。

 実に日本的だ。日本で言うところの盆と神様の誕生日を混ぜてしまおうというちゃんぽんイベント。

今日はそのパーティーで自分がどんな衣装が着たいかを考えて絵に描くのだ。

そしてその絵を元にご家庭のお母様方が布と格闘をするというのがいつもの流れらしい。

世の母親も大変だ。

 わたしのままはと言うと、家庭的な事が好きな人なので凝った衣装もそつなく作ってしまうと思う。

というより、ままからすれば凝った衣装の方が作りがいがあって楽しいと思ってそうだ。

わたしが普段着ているひらひらもままお手製の物である。

 本当に凝り性な人だな。

考えながら黒いマジックを手に取り、画用紙に黒色を塗り広げていった。

わたしの衣装は魔女にしよう。

どんなにシンプルなデザインにしてもままはフリルを足してしまうから、ピンクや黄色のやつよりも黒い魔女が良い。

怪獣も捨てがたいけど、つなぎになってしまうと、トイレが面倒だから諦める事にした。

 小さな小人達がカラフルな色を手に思い思いの色を塗りたくる。

さっさと描き終わった私は自分の絵を持ち先生を元に向かった。

「桃子ちゃんは何にするの?」

声に足を止めると、あおいちゃんが面白そうに私の手元を覗き込んでいた。

真黒な私の紙を見てわあ上手と声を上げてくれる。

「魔女にするの」

と私が答えると絵を見てあおいちゃんはすごいねすごいねと言ってくれた。

しかしみるみる表情は曇り俯いてしまう。

おやと思って覗きこむと、あおいちゃんは悲しそうな顔をしていた。

「大丈夫?」

 問いかけにふるふると首を振り、小さく小さく声を出す。

「だって、わたし桃子ちゃんみたいに描けなかったもん」

そういう手の中画用紙はくしゃっと音をたてる。

「見せて」

お願いしてみるも首を振られてしまう。

「笑われちゃうもん」

根気よく話しかけよう、彼女が頷いてくれるまで。

「そんなことないよ」

「本当?」

「うん」

一瞬の間の後、上目づかいに聞かれた。大丈夫絶対に笑わないよの意味を込めて笑顔を作る。

伝わるかなとどきどきしたけれど、わたしの顔を見て紙を持つ手が緩んだ。

おそるおそる開いてくれた画用紙にはピンク色の可愛いお姫様の絵が描かれていた。

「私のより可愛いよ。だってピンクだもん」

わたしが言うと、彼女は嬉しそうに笑いありがとうと言って手を繋いでくれる。

 あおいちゃんは笑顔がかわいい。おとなしくてなかなか見られないけれど、私はこの笑顔が好きだ。

手を繋ぎいっしょに紙を見せに行く。

あの衣装はとてもあおいちゃんに似合うだろうな。

可愛いドレスのあおいちゃんを頭に描く。うん、やっぱり似会ってる。

女の子は皆お姫様が好き。私も昔はそうだった。

私のガラスの靴はもうないけれど、彼女の靴はまだ手の中に有る。

大事に大事にしてほしいと思う。

いつだって魔法はすぐに溶けて消えてしまう。

彼女の靴はいつまで溶けずに残ってくれるだろうか。

 可愛いお姫様をエスコートしてわたしは先生の元に訪れた。

「先生、できました」

私の言葉に二枚の紙を受け取り、眺めた先生はどっちもよく描けてるねと微笑む。

「お姫様があおいちゃんで魔法使いがトウコちゃんかな?」

「うん」

「そっか、トウコちゃんはどうして魔法使にしたのかな?」

変だっただろうかと考えて、そうか小さな女の子達はもっとカラフルな方がいいのかなと思いつく。

 そういえば、向かいに座っていたかおるちゃんとえりかちゃんも黄色の妖精と赤のお姫様だった気がするな。

わたしが考え込むのを見て、拗ねてしまったと思ったのか先生が優しく声をかけてくる。

「先生も魔法使いが好きだから、トウコちゃんも好きなのかなって思ったんだ」

「せんせえ、魔女だよ」

 隣のあおいちゃんがわたしの手を握ったまま言った。

「桃子ちゃんはね、魔女なんだよ。それにね桃子ちゃんはシンデレラの魔女なんだよ」

おとなしいあおいちゃんが珍しく自分から発言している。

いつもはかおるちゃんやえりかちゃんの後にちょこんと要るのにめずらしい。

「良い魔女なの。困ってる子を助けてくれるんだよ」

 ねっと笑う彼女は可愛い笑顔をしていた。

「うん」

わたしも笑顔になって頷いた。

 今の私はお姫様ではないけれど。

魔法使いも悪くない。大きな大きな箒に乗って空を飛ぶのも楽しそう。

わたしとあおいちゃんが笑うのを見てそっかと言った先生は良く描けましたと受け取ってくれた。

先生大丈夫ですよ。パーティーでは多少浮くかも知れないけれど、私のラッキーカラーは黒ですから。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る