ソフトクリームと雨音のお茶会
最近桃子の様子がおかしい。
最近と言っても、おかしな行動を始めたのは夏ぐらいからだと思う。
蛍が生まれてから桃子には寂しい思いをさせていたし、お向いのおばあちゃんが亡くなって元気がないのは分かっていた。
忙しさにかまけて桃子の心のケアが足りなかった事を今更後悔している。
桃子は元々自己主張をしない。何か壁にぶつかっても、嫌なことがあっても自分で解決するか飲み下そうとする。
私たちの行動がそうさせてしまっていたのかもと思うと、どちらが親なんだと悔しくなった。
完璧は無理でも私はこの子の母親だ。桃子が転ばずに歩けるようになるまでは守らなくちゃいけない。
私の小さな宝物は今何か悩んでいる。
それが分かっていたのに何について悩んでいるかは分からない。
それどころか桃子の好きな物さえ正確に把握出来ているか怪しい。
私は昨日まで我が子が本が好きだということさえ知らなかった。
桃子の寝顔を見る。
さっきまで赤かった顔は随分マシになっていた。
大人っぽいからと放任していた娘はお湯に上せてひっくり返っていた。
どこも怪我をしてなかったから良いものの、一歩間違えば怪我だけでは済まなかった。
自分の至らなさに溜息が出る。母さんはどうやって子育てしていたのだろう。
今度相談してみようか・・・・・・。
桃子の寝顔に手を伸ばす。
願わくば我が子に多くの幸せを。
私に足りないものを神様に願う。でも、願うだけじゃ駄目だ。
「桃子。お母さん頑張るからね」
眠る娘に固く誓った。
暗闇に光が見える。
小さな小さな光は頼りなくて、豆電球みたいなちっぽけな明かりだった。
でも、足もとも見えない暗闇では心強くて光を強く握りしめた。
薄ぼんやり光るこれは何だろうと、目を凝らす。光の正体は私のよく知る小さな手だった。
「わたしの手?」
問いかけに答えるように視界が広がる。
目の前には沢山の花と赤い屋根が見えてきた。
これって花屋敷?
見覚えのある建物を見上げる。
間違いないあの花屋敷だ。
屋敷はいつものようにそこに有るのにいつもと何か、何処か違う。
足を踏み出した私はいつものわたしじゃなかった。
「嘘!?戻ってる!!」
自分の手や足を見る。見慣れた大きさの身体。
衣服だって、寝る前に着用していたものだった。
「戻れた!」
嬉しさのあまり飛び跳ねる。ぴょんこぴょんこ跳ねてようやく、状況がおかしい事に気付いた。
待って。何で身体は戻ってるのに花屋敷の前に居るの?
状況のおかしさに違和感を覚える。
もう何が夢なのかわからない。
「ねえ、あなた」
突然の声に辺りを見回す。
「こっちよ」
呼ぶ声に耳を傾けると聞き覚えのある声だった。
嘘でしょ!?
驚きと共に身体が動いた。開いたままの門扉を潜る。
つる草のアーチの先には沢山の花々とわたしの大好きだったご婦人がいた。
「やっと会えたわ」
優雅に笑うご婦人との最後のお茶会が始まった。
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