ソフトクリームと雨音の向こう
ゴロゴロ。
さっきほど迄の雨だれは豪雨に変わっていた。
「やあね。明日お洗濯出来るかしら。」
ままは眉根を寄せて牛乳を手に取る。
今日のお夕飯はクリームパスタ。
ご飯の前にお風呂入っちゃいなさいと言うままに従いお風呂へと向かった。
やっと慣れてきた身体でワンピースを脱ぐ、これのおかげで今日は随分良い思いをさせてもらった。
本日のラッキーアイテムに別れを告げ、小さい身体は浴室のドアをくぐった。
鏡に映った自分を見て、まだこの身体に馴染めなかった頃の事を思い出す。
向日葵が咲いていたあの夏、わたしは随分奮闘していた。
両親に怪しまれないぎりぎりのラインを見極め、思いつく限りの戻る方法を模索した。
ある日はあの日と同じ気温、場所、物を思い出せる限り用意し、苺味のソフトクリームに挑んだ。
またある日は真夏の灼熱の中スケッチと称して同じベンチに何時間も留まった。
あの日と同じ服装で、街を練り歩いた日もあったし、お決まりの高い所からも飛び降りてみた。
膝を盛大に擦り剥いただけだった。
夏の苦い記憶の数々にもう治ったはずの膝が痛む。気のせいだと分かっていても、あの時の痛みは脳裏に焼き付いて消えてはくれない。
負傷したわたしを見てままは青ざめていたし、ぱぱはお転婆が過ぎると怒っていた。
仕方ないと思う。結構な深手だったから。
その後は二人の厳しい目の元、無茶はできなくなったし、わたし自身大いに不便を感じたので強硬策は当分しない事とした。
二人に怪しまれないラインを目指していたはずなのに、私は焦りから安全第一というのさえ忘れていたのだ。
確実に帰れる保証のない事に身体を張る必要はない。
私が夏に学習した事のひとつ。
ソフトクリーム事件の経験は何ひとつ生かされなかった訳だ。
こうしてまたひとつ私の頭に痛みが残った。
あと何回この痛みは続くのだろうか。上せた頭で考える。
夢のようなこの空間で確かなものは今だひとつとしてない。
どんなにリアルなこの空間も私にとっては物語の延長に過ぎない気がした。
いつだって私は傍観者だ。
そう望んでそうしてきたのだから。
お風呂場に雨音が響く。
ざあざあざあ。
停電になるかもしれないな。
そう思って重い腰を上げる。
風呂場の敷居を跨いだ瞬間、私の視界は暗転した。
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