ソフトクリームと雨音の夜
バサッと開いた傘はふんわりと広がり雨粒を跳ね返す。
花の形にデザインされた傘はまるで、さくらさんの為に作られたようだった。
雨の中に佇む彼女は正に花の精そのものだ。
「お邪魔しました。」
今ここにカメラが有ったら確実にシャッターをきっていただろう。
この瞬間を切り取ってしまいたい。それくらい絵になっていた。
「またいつでも来て頂戴」
「ありがとうございます」
見とれる私の袖がくいくいと引っ張られる。わたしの視線が横に向いたのを確認して深月くんが話かけてきた。
「明日十二時に来いよ」
少し早いかなと思ったが頷いておく。まあ十二時位なら良いだろう。
わたしの反応に満足したのか彼はそっと袖を離した。
しかし随分気に入られたものだ。そう思うと頬が緩む。もう一人弟が出来たみたいだ。
深月くんはわんぱくだが、愛嬌がある。
加えてあの見た目だ周りはついつい甘やかしたくなってしまうだろう。
しかし、さくらさんは本人の為にならないからと厳しく接しているようだった。
小さなお母さんだな。
可愛い少女の奮闘にますます頬が緩むのを感じる。
わたしの顔面はぐだぐだに緩んでいた。そんなわたしを見つめる人間がいる。
深月くんだ。彼は興味深げにわたしの顔を見つめていた。
あわてて顔を引き締める。折角懐かれているのだ。
大人としてだらしない所は見せられないなと意気込んでみたが、今の私は四歳。
傍からみたら、子供だったなと思いだした。
私の葛藤をよそに、引きしまった顔を眺めたまま深月くんが言った。
「お前笑うんだな」
え!そりゃ笑うさ。驚きのあまり顔が引きつる。
「何で笑わねえの?」
いや、笑っているよ。
実際わたしは今日随分笑った。他人からどう見えていたかは知らないが、確実ににやけていたと思う。
しかし深月くんの反応を見るにあまり表面に出ていなかったのかな。
「笑ってるよ」
「いつ」
「さっきからずっと」
その発言に眉根が寄る。深月くんは考え込んでしまった。
不味い発言をしてしまったかなと思った時にはさくらさんに促され二人は帰って行った。
「お友達が出来て良かったわね」
嬉しそうに頷くままにわたしも頷いて答える。
本当に良かった。本当に。
しかしとも思う。最後の失言が無かったらもっと良かったかな。
雨音に私の考えはかき消えた。
家に戻るとリビングはお通夜状態だった。
眉間に深い深いしわを作ったぱぱがずっとぶつぶつ呟いている。
見かねたままに頭を叩かれて、正気に戻ったぱぱは開口一番遊びに誘ってきた。
「明日は出かけような!」
「だから、桃子は明日も柏葉さんと遊ぶのよ」
ままの放った言葉にぱぱはブリッジする位身体をのけ反らせている。
少し感心してしまう。身体柔らかいなあ。
ままは笑ってそのままキッチンへと向かい、残されたわたしはぱぱの背に手をあてて言った。
「来週いこうよ」
ぱぱの目にみるみる光が宿る。
わたしを抱き上げ嬉しそうに頬ずりするぱぱが、娘離れ出来るのはもっとずっと先の事だろう。
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