ソフトクリームとみたびのお茶会
フルーツサンドを齧る。
ふわふわ軽いパンにクリームの甘みと苺の酸味が広がる。
後を追うようにみかんのみずみずしい果汁と、バナナのもっちりとした甘みが口の中一杯に広がる。
食育とはよく言ったものだ。ままの料理はまさに食育そのものだった。
それはさくらさんも同意見だったらしい。
一口食べたフルーツサンドを見て、どうやって作ってるのかしらと呟いていた。
ままは凝り性だ。一度はまると極めるまでは絶対止めない。
今のブームはパン作り。始めは不格好でパサパサだったパンも、今では美しく真っ白な生地で口の中に溶け込んでいく。
「おいしい」
思わず口から漏れた言葉にさくらさんも頷く。
「本当に。桃子ちゃんのおかあさんお料理上手ね」
「え、これ作ったの?」
二人の言葉に鼻が伸び上がった。実際に伸びてはいないけれど、見えない鼻は高く高く天位を目指す。
王様にでもなったようなわたしは得意げに踏ん反りかえった。
ままの料理はわたしの自慢だ。
踏ん反りかえったわたしに深月くんが笑っている。
お前もそんなことするんだなって。私案外お調子ものですよ?
ボードゲームにお菓子にお茶と楽しい時間は流れゆく。
流れた時間はあっという間に日を下げて、終わりの音がなる鈴が鳴る。
楽しいお茶会はもう終わり。
「深月、帰るよ」
鈴のようなさくらさんの声に深月くんの顔が曇る。
「何で?まだ四時じゃん」
「もう、四時よ。それにもうすぐ五時じゃない」
時刻は四時四十分。確かに五時近い。
「トウコだって、まだ遊びたいよな?」
「え・・・・・・」
まさか自分に声がかかると思っていなかったわたしは弱ったような声になる。
援軍を得る気だった深月くんはその反応に寂しそうにつぶやいた。
「なんだよ。楽しくなっかたのかよ」
拗ねたように顔が俯いた彼に慌てて弁解する。
「た、楽しかったよ。とっても楽しかった」
わたしが勢い込んで言うものだから、彼は面白かったらしい。
ふはっと笑って「俺も楽しかった」
と、笑顔をつくった。この子は大層もてるだろう。
まだ見ぬ彼の未来に、ふっと思いを馳せてみた。彼女になった子は大変だろうな・・・・・・。
だが私には関係のない話だ。
自慢じゃないが、私はもてない。
最後、誰かに告白されたのは小学生の時だった。
その後は告白もされず、お付き合いもせず。さぞほの暗い人生に見えただろう。
私としては気にならなかったが。
そんな非もて自慢を一人披露していたため、柏葉兄弟の話合いには不参加になっていた。
腕を掴まれてようやく意識がこちらへと戻ってくる。
腕には深月くんがしがみ付いていた。
これ、どんな状況?
いまいち状況が掴めずさくらさんを見る。彼女は呆れた顔をしていた。
「朝早く来たじゃない」
「まだ暗くないじゃん」
これは本格的に喧嘩になる前に止めるべきだと判断したわたしは深月くんに話しかけた。
「次遊ぼう」
「次っていつ」
え・・・・・・。いつとは決めてなかった。いつなら納得してくれるかな。
彼の問いに考え込むと、さくらさんの溜息が聞こえた。本当にお疲れ様です。
「じゃあ、明日な」
突然の決定に彼を見る。何だよ、駄目なのかよと言いたげな目にうっと言葉が詰まった。
「あ、はい」
子供らしからぬ答えで明日の予定が決まってしまった。
ぱぱの叫び声が聞こえた気がした。
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