ソフトクリームと歌
二人の読み聞かせは、くすくす笑う声で終わった。
いつの間にかままがドアの隙間から、わたし達を見ていたのだ。
私が恥ずかしくなって膝を下りると、ぱぱは残念そうな顔をしていた。
そのぱぱに蛍を預け、ままはキッチンへと向かう。
ぱぱに抱かれた蛍はあーあー言って私に手を伸ばすものだから、ぱぱの顔はますます寂しげになった。
しとしと降る雨に今度はままの鼻歌が重なる。
ままはとってもお歌が上手。聞いてて心地が良いくらい。
ぱぱもそう思っているらしく、ほたるをあやしながら聞き入っている。
幸せとはこういう事をいうのだろうな。優しい気持ちになりながらも、何処か他人事のように思う。
わたしの足は、あの夏の日からずっと宙ぶらりんのままだった。
青い空に子供の足がぶらぶら揺れる。
わたしが私に戻ったら、わたしはどうなるのだろう?
ままは?ぱぱは?
わたしの胸にじわじわ不安が染みわたる。
こぼしたコーヒーみたいに広がった染みはどんどん黒くなっていった。
怖くなってぱぱの腕にすがりつく、優しく声をかけてくれるこの人も、今は話す事さえできない私の両親も私にとっては変わらない家族なのに。
どちらか選ぶのが苦しくなる自分に私は怖くなった。
こんな所、来たくなかった。こんな人たちに会いたくなかった。会わなければこんな悲しい思いせずにすんだのに。
わたしは人がきらい
わたしは人がこわい
私の憧れていたワンダーランドは優しくとても苦しい場所だった。
「どうした」
優しいぱぱの声が心配そうにわたしに促す。
「こわい夢をみたの」
「そうか」
ままがごはんに呼ぶまで、ぱぱは頭をなで続けてくれた。
私はこの人達が大好きだ。失くすのが怖いくらいに。
ままのご飯は今日も美味しかった。
サンドイッチに和風のおすまし、ゼリーに茶碗蒸しまであった。
茶碗むしなんて朝から大変だっただろうに。このちぐはぐな朝食は全部わたしの好きな物で揃えられていた。
箱の中からひとつ減った、葉っぱの事も何も言われなかった。
ままもわたしの変化に気付いているのだろう。
心配させてしまった。申し訳ない気持ちで眉が下がってしまう。
そんなわたしにぱぱが「今日は皆で出かけるか!」と切り出した。
「駄目よ」
「無理だよ」
ほぼ同時にままと声が被さった。
何で、というようにぱぱが首をかしげる。
「今日桃子はお向さんと遊ぶのよ」
ままの言葉にああとぱぱが頷いた。
「お孫さんが向かいに越してきたんだったな」
「そう、桃子は深月君と今日遊ぶのよね」
説明を任せサンドイッチを頬張っていたわたしは顔をしかめる。
「まま、くんじゃないよ」
そうだ。いくら彼女が男勝りだからってくん付けは可哀想だ。わたしの抗議にままはけろりと笑い。
「あら、桃子の方が失礼よ。」続いた言葉に耳を疑う。
「深月くんは男の子よ」
「ええ!!」
「ええ!?」
ぱぱとわたしの声が重なる。二人とも種類は違えどかなり驚いていた。
「嘘やんあの子男の子なの・・・・・・。」思わず素が漏れる。
驚きすぎて関西弁になっていた。
「あんた、話し方どうしたの?」とままに聞かれても耳を通り抜ける。
男の子・・・・・・。あんなに可愛いのに男の子なのか・・・・・・。
ああ、だからかと妙に納得がいった。あの話し方は男の子だからか。それでも、多少口は悪いがあれ位の悪がきは普通に居る。
そうかそうかと頷いているとぱぱが「男の子なの?ねえどんな子なの」
みたいなことをずっと聞き込んでいた。
ままもよせば良いのに要らぬことを言う。
「芸能人みたいに可愛い子でさ。桃子の事気に入ったみたいなの」
「え・・・・・・。」
ぱぱの顔はこの世の終わりみたいになってた。
蛍は不機嫌そうに声を上げてた。
何だか面倒くさいことになりそうだなと思った私は、ぱぱにばれない様に小さくため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます