ソフトクリームと雨

まま達が起きて来るまで絵本を読んで過ごす事にした。

静かなリビングに音を入れる。

月の光。音がリビングに染み渡るように広がる。

今は朝だけれど、雨の降る今日みたいな日にはぴったりだと思った。

しとしと音を立てる雨だれと静かに響くピアノの調べが私だけを包み込む。

ふんわりした気持ちのままに棚から本を引き出した。

本日の絵本は[どんぐりと山猫]

これを選んだぱぱはセンスが良い。私もこのお話は大好き。

山猫と人間の掛け合いや誰が偉いかの裁判。

その時のどんぐり達が言い合うシーンは私の一押し。ぽこぽこ動くどんぐり達はコミカルでとても可愛い。

どんぐりと一緒にわたしも「違うのです!」と叫びたくなる。

そして最後の約束が果たされないあのシーンには、わたしもうんうん頷いて勿体ない勿体ないと眉根を寄せた。

 ふっと障子の開く音が聞こえた。顔を上げてすぐぱぱがリビングに顔を出した。

「おはよう」

言ってすぐこちらに向かって来る。

あの事かな。

 ぱぱはわたしの特等席前に屈み込み、わたしを見てから本を見た。

「桃子は本は好きか?」

「うん」

ぱぱの問いにこくんと頷く。

「そうか。ぱぱ知らなかったな」

そう言ったぱぱは少しさみしそうだった。

 「何の本が好きなんだ?」

ぱぱの問いに手もとの絵本を持ち上げる。

「これ」

「そっか。それぱぱが買ってきたやつだな」

「うん」

「その本の何処が好きなんだ?」

「どんぐりがね。可愛いの」

絵本を見たまま答えるとぱぱはわたしを覗きこんできた。

「ぱぱも一緒に読んで良いか?」

こくんと頷くとぱぱは嬉しそうにわたしを抱きあげる。

「重くなったな」と言い終わるころにはわたしはぱぱの膝の上にいた。

少し恥ずかしかったけれど、ぱぱと一緒に本を読む。

ふたつの声が雨に重なる。

ピアノの音が包むのは、ひとつじゃなくてふたつになった。


 記憶が戻って初めての読み聞かせだった。



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