ソフトクリームと泡

夕飯のメニューはカレーライス、鶏肉のスープと生野菜のサラダだった。

どれも美味しく頂き、お腹が落ち着いたらお風呂に入る。

 ままに一緒に入るか聞かれたけれど、私は一人風呂派だ。

頭だって一人で洗える。体や頭を洗い、顔を洗ったらお待ちかねのアレが使える。

ぶくぶくぶくぶくー。

湯の中に泡と黄色がどんどん広がる。今日のお湯はゆず湯なり。

 最近の私のマイブームを余すところなく堪能する。

これだわーこれこれ。

ままと一緒だとおじさんみたいだから止めなさいって言われる、低い声を上げて今日の疲れを洗い流す。

わたしのささやかな楽しみだ。

 心地よい暖かさに眠くなる。いかんこのまま寝たら、もう一人風呂は出来なくなってしまう。

湯船を蹴ってお風呂を上がる。

体を拭いて取ったパジャマはピンク色。

はあ・・・・・・。溜息がでた。

 ままはわたしに可愛い服を着せたがる。

フリル、レース、リボン。

これ見よがしにデコレーションされたケーキみたいな服を着せられる側にもなってほしい。

私はシンプルな服が好きなのに。

いつになったら、自分の好みの服が着られるのかと思いを馳せながら寝床につく。

和室には三枚の布団とひとつのベット。

窓側から、ぱぱ、わたし、まま、蛍と寝てる。蛍はもうすこし先までベビーベットかな。

そんなことを考えていたら、瞼が徐々に重くなる。

今日はとても疲れた。

 足音が聞こえる。ままが様子を見に来たのかな。

まどろみが深くなる。

午後八時十分ごろ。前の私じゃ有り得ない位、早い時間にわたしは眠りについた。




彼女は魔法使いみたいな人だった。

悲しい時は彼女の所に行って魔法をかけてもらっていた。

「ままとぱぱね、蛍ばっかり。わたしだってここにいるのに」

「そう、じゃあお利口な桃子ちゃんにはご褒美が必要ね」

「ごほうび?」

「そうよ。手を出して」

わたしのてのなかに小さな星がおちてきた。

「おばあちゃん、これなに?」

「お星さまよ。桃子ちゃんへのご褒美」

受け取ったわたしはだいじにだいじに星をしまった。

おばあちゃんからのごほうび。

これはだいじなもの。

わたしはおばあちゃんだい好き。

ほんとうのおばあちゃんじゃないよ。お友だちなんだ。

わたしがかなしいときおばあちゃんは頭をなでてくれる。だから好き。

わたしの一番のお友だち。


昨日おばあちゃんのお家にいったら、お手つだいさんがびょうきだって言ってた。

おばあちゃん早くなおるといいな。




 目が覚めた。というより飛び起きたと言っていい。

自分のいつもの布団とまくらなのに酷く居心地が悪い。

パジャマが寝汗で体中に張り付いていた。

 気持ち悪い。早く着替えたくて押入れの襖を開けた。

下の段の引き出しから洋服を引っ張りだした。

出てきたのは、あまり好きではないワンピースだったけどそれよりも早く着替えたかった。

脱衣所に行きパジャマを放り投げる。さっさと着替えて脱衣所をあとにした。

出たついでにリビングで時間を確認する。

時刻は、午前五時二十分。

まだ誰も起きてきそうにない。

 冷蔵庫からペットボトルを引っ張ってくる。コップに注いで口を付けたら、やっと落ち着いた。

 嫌な夢をみた。

前半は良い夢だった気がする。だけれど、後半は確実に嫌な夢だった。

まだあれが夢なのか現実なのかの区別がつかない。

今この瞬間も夢を見ているようなものなんだから。

 気を取り直すべく辺りを見回すと、昨日もらったお菓子の箱が目に付いた。

嫌な時には甘い物。前からの私の習慣だ。

朝から、お菓子を食べるとままに怒られるから、普段は絶対にしないけれど今日は特別。

 黄色いフィルムをつまみ上げ封をきる。はちみつの甘い匂いがした。

前の葉っぱはパイぽかったけれど、黄色の葉っぱは柔らかい。マドレーヌだろう。

口に含むと蜂蜜の他にほのかにオレンジの香りがする。齧りついた断面を見ると中にジャムが入っていた。

マーマレードジャム。私が一番好きなジャムだ。

もぐもぐと噛む内にジャムとマドレーヌは元気に変わった。

 淀んだ水底のようだった心は日の光を一杯に浴びたオレンジのようになった。

丁度ワンピースもオレンジ色だ。これはきっと縁起が良いぞ。

大嫌いだったワンピースがとても良い物に思え、ひとつぴょんと跳ねてみる。


大丈夫、もういつもの私だ。

 

 あの奇妙な夢はふわりと浮き上がり、ぱちんと弾けて消えてしまった。


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