第3話
オカルト研究部の部室は、旧校舎の二階にあり、いつ見ても黒いカーテンで覆われている。その中からたまに、人の悲鳴や叫び声が聞こえるという噂があり、なるべく近寄らないようにしていた。
しかし、今の小野田は「無敵」だ。
何せ未来予知のスキルがある。「オカルト研究部」と書かれた紙が貼られた扉の前に立ち、小野田は薄く微笑んだ。
ーーさて、入る前にちょっくら未来でも見てみるか。
と、しばらくその場に立っていたが、いくら待っても何の映像も見えない。首を傾げていると、出し抜けに扉が開いた。
「うわぅ!」
「……ん?」
顔を出したのは白髪の男だった。ギリシャ彫刻のようなハッキリとした顔立ちだ。
「君ーー」
長い睫毛のうしろで目玉がカッと開いた。
「もしかして入部希望者かい?」
「いやちが」
「山岸くーん! 入部希望者! 入部希望者だよ!」
男は叫びながら部室内に入っていく。
「ちが……」
否定しようととっさに後をついていくと、内装の異様さに言葉を失った。
本来教室にあるはずの机やロッカーがいっさい取り払われており、中央に赤い椅子と黒いソファが黒い机を挟んで置かれていた。
壁際の棚にはホルマリン漬けの何かや、見たこともない生物の彫刻が並べられていた。部屋の四隅では蝋燭が揺らめいている。
「入部希望者ですか……」
背の高い女が音もなく目の前に現れて、不気味に微笑んだ。
「お、俺は」
「気が変わらないうちに入部届けを書かせないと」
女性の隣に立ち、白髪の男が言った。
「い、いや」
「あ、もしかして入るかどうか迷ってる? それなら一週間くらい体験入部してみようか。うん、そうしよう」
そうするよね、と男は念を押す。男の背後では、ホルマリン漬けがぷかぷか浮いているーー。小野田は震えながら頷いた。
こんな未来は読めなかった。
小野田は赤い椅子に座るよう促された。部長だと名乗った
「この時期に新入部員が来るなんて予想外だよ。嬉しいな」
亘理は嬉しそうに微笑んでいる。目は鋭どいが表情は穏やかだ。
噂では悪魔のような男と聞いていたが……そうでもないのだろうか。
今ならまだ撤回が間に合うか。
「あの、俺」
「やっぱりオカルトに興味があるの?」
亘理がずいっと顔を近づけてくる。
「は、はい……」
小野田は気が弱い。
「いいね。ぼくは特に幽霊に興味があってね。幽霊の持つ切なさや、強い恨みや未練に惹かれるのさ。君はもう分かりきっているかもしれないけど、霊の良さはね……」
亘理が語り出した頃、
亘理は小野田の動きに気づいた様子はなく、熱く語り続けている。
「……でもやっぱり穏やかに逝ってほしいと思うんだよ。オカルトを愛する人間として、幽霊に敬意を払っているんだよね。死んでも死にきれないほど強い思いがあるなら汲み取ってやりたいんだ。ぼくは……」
だんだん亘理の声が遠くなってくる。先程から、「未来」が見えないのが不安だった。山岸が現れる事も見えなかった……。オカルト研究部に来てからだ。
ーーなぜだ? 能力がなくなったのか。また凡人に逆戻りか?
まさか亘理も能力者で……何か妨害されているのか?
予知を妨害する能力か。いかにもライバルキャラが持っていそうだ。彼がライバルキャラだと俺より人気が出そうだけど。
それとも未来を読むためには何か条件があるのか。小野田自身も気付いてないルールがあるのか。
「小野田さん……大丈夫ですか?」
「えっ」
山岸が小野田の顔を覗き込んでいた。
「顔色が……」
「すまない。つい話しすぎてしまった。舞い上がっているようだ」
亘理が咳払いした。
「君……本当に気分が悪そうだね。今日はもう帰るといい。明日また来てくれるかい?」
小野田は頷いた。逃げるようにして、部室を出た。未来が見えない事が不安でたまらず、もうその場にとどまっていられなかった。
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