第2話
アラームがけたたましく鳴った。その音を止めたと同時に昨日の事を思い出した。莉子に振られたという事実を。
休もうかな、と思いベッドでまどろんでいると、階下から母親の怒号が飛んでくる。
ーーとりあえず起きるか。
ダイニングに降りると、母が洗い物をしながら、「学校行かないの」と鋭い声で言った。小野田は行くよ、とぶっきらぼうに答え、テーブルにつく。
テーブルの上にはクロワッサンが置かれていた。小野田は母の背中に向かってパンかよ、と言った。俺がご飯派だって知ってるだろ、と続ける。
「文句があるなら自分で用意しな」
母が振り向いて言った。何も言い返すことができず、仏頂面でクロワッサンを掴み、かじりついたーー。
はずだった。
「……き。朝来? なに、ぼーっとしてんの?」
気がつくと、母が怪訝そうに小野田の顔を覗き込んでいた。
クロワッサンを持っていたはずの手は椅子の横にぶらりと垂れ下がっていた。そして、テーブルの上には、手付かずのクロワッサンが置かれていた。
学校に行ったあとも、同じような現象が起こった。どうやら、少し先の未来が映像で見えているのかもしれないと、小野田は考えた。
まず、先生に次当てられることが見えたあと本当に当てられた。また、体育でサッカーのボールを顔面で受け止めてしまう事が見えたり、「掃除を変わってよ」とクラスのいけ好かない奴に頼まれて断れないことが見えたりもしたのだ。
そんなことが続き、放課後になった頃には疑惑が確信に変わっていた。これは未来が見えているのだと。己は未来予知の能力に目覚めたのだとーー。
一人で教室を掃除しながら、小野田は天を見上げた。ボールが当たって鼻血が出たので、鼻にティッシュを詰めている。
未来が分かるのは、実際に起こる直前なので、なかなか厄災は避けられず、結局先生に当てられて答えられず恥をかくのも、ボールが当たるのも、頼まれて断れないのも、映像通りになっていた。
しかし、未来予知というのは所謂「最強キャラ」が持っている能力だ。この力さえあれば、平凡な人生を変えられるかもしれない。
しかし、未来が見えたのだと分かれば、莉子に告白などしなかったのに。今日、莉子はいつもの車両に乗ってこなかった。
おそらく、今までも小野田の事は認識していて、人畜無害だと思っていたから、わざわざ変える必要もないと同じ車両に乗っていたのだろう。
しかし、莉子にとって小野田は、ただのモブから「フッた男」になってしまった。できれば関わりたくない男になったということだ。
もう二度と、彼女が微笑みかけてくれることはないだろう。
「この力を、有効活用したい……」
小野田はつぶやいた。力について、もっと学ばなければならない。そもそもなぜ、自分はこの力を手に入れたのだろう。何でもない日常を過ごしていたのにーーいや。
「ヤンキー……」
箒を握りしめた。莉子に告白したのも非日常だが、その非日常を引き起こしたのは、あの異分子(ヤンキー)だ。
たしか、オカルト研究部がどうたらとか言っていた気がする。
教師が殺人未遂を起こした事件に関わっていたらしいとか、部長が黒魔術の使い手だとか、怪しい噂ばかりある部だが……。
ーーだからこそ、この力について何か知っているかもしれない。
「行ってみるか」
小野田はつぶやいた。気分はもう、漫画の主人公だった。
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