第7話

 憎い。人間が憎い。


 一匹のカエルが憎しみを募らせていた。カエルと言っても、彼はすでに息絶えており、魂だけが残っていた。そして、高いところから、干からびた己自身を見つめていた。

 あまり、複雑な感情はわからない。自分が感じている、燃えるような「それ」に名前がついているのかも、彼にはわからなかった。


 ただ、人間を苦しめたいという思いがあった。


 うわあ、カエルだ、キモいねーー。


 通りがかった人間が、彼の肉体を見て言った。自分の肉体を見て言ったのは分かるのだが、キモいという言葉の意味はわからなかった。


 彼の肉体はしばらく放置されていた。その間、彼はじっと自分を見ていた。そして死んでいった同胞を思った。生まれたばかりだった子供達を思った。

 子供達……。池から水を抜かれては、ひとたまりもなかっただろう。最後にそばにいてやりたかった。餌をとるために池を離れていたことが悔やまれた。


 ーー人間め。


 彼の中の「それ」がまた燃え上がった時、彼の肉体が人間に拾われた。人間は、優しく肉体を掬い上げて、公園の土に埋めたのだった。


 その行為の意味は、やはり彼には分からなかった。ただ、彼女の手のひらから、伝わったものがあった。


 それは、慈しみだった。死んだ彼を悼んでいた。彼は、深い愛に包まれた。


 その愛情によりーー彼の魂は天に昇ろうとした。しかし、途中で、死んだ同胞の魂と混ざってしまった。その魂も憎しみに支配されていたが、彼と混ざると、彼を包んでいた愛情が注ぎ込まれ、憎しみが浄化された。


 そして、魂は天に還らずーーを埋葬した人間、金田春子をこっそり見守るようになった。


 春子は学校でも家でも楽しそうに笑っていたが、一人になるとなぜか塞ぎ込んでいた。一人で泣いていることもあった。

 カエル達は混ざったことで知能が上がり、春子を見守るうちに色々なことを学んで、人間は主に悲しい時に涙を流すこともわかるようになっていた。


 励ましたいと思った。春子が好きな姿になった。怖がらせないように、幽霊ということもカエルだということも秘密にするつもりだった。

 そして、春子が公園で一人で泣いていた時、「エル」は姿を現した。


「大丈夫?」


 今度は「オレ」が助けてあげようと、誓ってーー。




 次の日は晴れていた。雲一つない晴天で、テレビをつけると、ちょうど天気予報のコーナーで、「梅雨が明けた」とアナウンサーが嬉しそうに告げていた。


 春子は学校に向かった。まずは、里帆達にひどいことを言ったと、謝ろう。そして自分の思いをきちんと伝えようと決めていた。

 里帆達と話した後は、オカルト研究部に行ってみよう。山岸と亘理に、お礼を言いたかった。もしかすると、亘理は風邪が悪化して休んでいるかもしれないが。

 部活にも顔を出そう。もしかしたら、もう辞めるかもしれない。でもその前に、けじめはきちんとつけないといけない。


 そしてまた、雨が降ったらエルに会いに行こう。



 エル。愛しきカエルの幽霊。今度、カエルの姿になってと言ったらびっくりするだろうか?何となく、見てみたかった。

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