第5章 変化

言葉あそびと水不足。

わだかまり


 小さいころの記憶は砂に描かれる風紋のように寄せては返す。

 波にのまれるように、両親の姿をもう一度見る。父は、薄暗い軒下でラクダをさばいている。母は、それを鍋に放り込んで煮込む。煙が上がる。煙は生き物のように、長い川のように、うねり、蛇行しながら、空へむけて登っていく。男はその軌跡を眺めていた。

「どうか起きてください」

 丁寧な口ぶりに、男は目を開ける。

 自分の体が硬い床の上にあることに思い至る。

 背中が冷たい。背骨まで凍りつくようだ。

 視線の先には、真っ白な天井があった。

 男が体を起こすと、すぐそばに青い布の青年がいた。彼は、男の顔を心配そうに覗き込む。

「調子はいかがですか」青年が尋ねた。

「もう大丈夫です。まったく、もう大丈夫です」男は矢つぎ早に答えた。なんとなく、もうここにいてはいけないような、そんな錯覚があった。

「いずれ日が沈みます。そうすれば、外は寒くなるでしょう」

 男は、どんな顔をすればよいかわからなかった。清潔な水を飲み、体は回復した。

「あなたは誰ですか」男は唐突に尋ねた。

 青年は、夢のように微笑む。

「私は誰でもありません」

「あの少女はいったい誰ですか」

 青年は可愛らしく首をかしげる。

「あなたには何の関係もありません」

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