第5章 変化
言葉あそびと水不足。
わだかまり
小さいころの記憶は砂に描かれる風紋のように寄せては返す。
波にのまれるように、両親の姿をもう一度見る。父は、薄暗い軒下でラクダをさばいている。母は、それを鍋に放り込んで煮込む。煙が上がる。煙は生き物のように、長い川のように、うねり、蛇行しながら、空へむけて登っていく。男はその軌跡を眺めていた。
「どうか起きてください」
丁寧な口ぶりに、男は目を開ける。
自分の体が硬い床の上にあることに思い至る。
背中が冷たい。背骨まで凍りつくようだ。
視線の先には、真っ白な天井があった。
男が体を起こすと、すぐそばに青い布の青年がいた。彼は、男の顔を心配そうに覗き込む。
「調子はいかがですか」青年が尋ねた。
「もう大丈夫です。まったく、もう大丈夫です」男は矢つぎ早に答えた。なんとなく、もうここにいてはいけないような、そんな錯覚があった。
「いずれ日が沈みます。そうすれば、外は寒くなるでしょう」
男は、どんな顔をすればよいかわからなかった。清潔な水を飲み、体は回復した。
「あなたは誰ですか」男は唐突に尋ねた。
青年は、夢のように微笑む。
「私は誰でもありません」
「あの少女はいったい誰ですか」
青年は可愛らしく首をかしげる。
「あなたには何の関係もありません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます