第2章 別の環境
女は宇宙で悩んでいる。
彼女のこと
RCビルの一室で、彼女はひとりで悩んでいた。片手には、小説がある。表紙には砂漠が描かれていた。
悩むことがまだあるのだ。
最上階から2つ下の部屋から見える景色は、なんの変哲もない都会だった。
あのマンションの、一つ一つにも、たくさんの人が住んでいることを思う。
これだけ安全な世の中になっても、未だに人が死ぬ。
小説の中では、砂漠の故郷を失った男が水を求めてさまよっていた。その頃の時代より、何千年も経ったにも関わらず、同じようにたくさんの人が毎年死ぬ。
その時、ドンと地面が揺れた。
高層ビルには、制振構造が施されている。
揺れは1分ほど続いた。
「大丈夫?」
振り返ると、ドアのそばに男が一人立っていた。
「返事がなかったら、大丈夫ではない」
彼女は、姿勢をただして男を見る。手を付いた窓は、ひんやりしていた。外気との温度差は5度くらいだ。
ここは、砂漠ではない。
「それならよかった。最近、地震が多いね」
男は、やりとりに慣れた様子で頭をかいて部屋へ入ってきた。
「その程度のことを伝えるために、わざわざエレベーターに乗ってきたの?」彼女は驚いて尋ねる。「メールすればいい」
「いや、図書館へ向かっていたんだけどね。そしたらほら、地震だから」
空は夕暮れで、紫と赤色を混ぜたような色をしている。
「何か本でも読むの?」
「君は何を読んでいるの?」
「砂漠の話」
「変わったものを読んでいるんだね。なんの役に立つ?」
男は笑って、近づいてくる。
「役には立たないけれど、時間を潰せる」
「潰す時間があるんだね」
男は静かに笑った。
「まぁ、本題だけど」
どさりと男は紙の束を机に降ろす。
「なんなのこれは」彼女は露骨に顔を歪める。
「いや、だから、資料」
「冗談でしょう。わざわざ持ち運んできたなんて。ページをめくらなくちゃいけないじゃない。なんでメールしないの?」
「疲れようじゃないか、たまには」
男は、再生紙のページをめくる。
砂のような音がする。
また、地面が揺れた。
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