第6話 エンド・セイヴ
一陣の風が吹く。
室内なのに、不自然だ。
その場にくずおれた紗梨亜を受け止めたのは、突如現れた茶髪の男。背が高く、騎士風の制服を着て、仮面をかぶっている。
立ち去ろうとする彼を兵たちが取り囲む。
「待て」
零音は鋭く問う。
「何が目的だ?」
しかし茶髪の男は答えない。
そこへ、
「うわあああっ」
兵士たちを薙ぎ倒し、封鎖された扉を蹴破り、巨大な猛獣が突っ込んでくる。
茶髪の男が飛び乗ると、猛獣は翼をかって空へ飛翔していく……!
零音は、天翔ける愛馬スノウを呼ぶ。
「ラフィア・スノウっ!!」
あるじの命により召喚された馬に乗り、零音は彼を追う。
「クソっ」
スノウは速いが、前を駆ける猛獣も速く、差がつまらない。
長時間飛翔し、森を駆け抜け、切り立った崖の上に建つ拠点に男が降り立つ。
零音も続こうとしたが、眼下から奇襲を受ける。
矢が一斉に放たれ、近づけない。
「紗梨亜っ……クソっ、クソっ……!」
矢だけでなく、おそらく〈星狩り〉だろう人間たちも2、3人出てきて、何か零音めがけて技を放とうとしている。
ここから紗梨亜を救うには、建物ごと吹き飛ばすしかない。
ラフィアの加護があれば、紗梨亜を守りつつ、敵を滅ぼせる。両手を建物に向けて、呟く。
「ラフィア・ディストロィ」
うっ、と零音は声を漏らす。
身体中の力がごっそり抜けていく。
一瞬のうちに、建物が消えた。
倒れた紗梨亜を地面に残して。
スノウは、彼女のそばに着地する。
だが、彼女が目を覚まさない。手首の黒いモヤが消えない。
術者がここにいなかったか、死んでもとけない呪いなのか。
零音はひざまずき、彼女を抱きしめる。
ぽた、と赤い液体が彼女の頬を濡らす。
え、と思う間に零音も倒れる。
力を使い過ぎたか、鼻血らしい。
幸い、抱きしめていたおかげで彼女の横顔がすぐそばにあって。
……死ぬのか。
呟きは、ことばにならぬほどだった。力尽きたようだ。
スノウがあるじの頬をなめる。
なぐさめてくれているのか。
それから、スッと紗梨亜のなかに消えた。
しばらくして彼女のまぶたが動いて、目を覚ます。スノウが力を貸してくれた。
よかったと、零音が見つめていると。
彼女がゆっくりと顔をむけ、零音に言う。
「泣いてる……?」
違うと、言いたかったが声がかすれて、音声にならない。
「死ぬのは、怖くないよ。天国にいる神様に会えるから。そこには、死も、苦しみもない。この地上では寄留者であり旅人だから……」
紗梨亜の浮かべる笑顔が、理解できない。
「零音も神様を信じてほしい……」
わからない。
死に際の紗梨亜の願いが。理由が。
だが、もう叶えてあげることも、守り切ることもできない。
動かない頭の代わりに零音は目で頷く。
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