蒼と雲の彼方で
悠川 白水
第1話 戦火の夏
そして、つい一瞬まで自分のいた空間には、おびただしい数の12.7ミリ
「しぶといジャップ、しかしケツについたぞ、どうだケツにつかれた気分は……思い知らせてやる!」
闘志十分のマスタングの計器の横には、婚約者であろうか、若くて綺麗な白人女性の白黒写真が留められている。
「くっ……」
そのようなことは
周囲を見る余裕はとてもないが、空襲を受けて
対米戦争が始まってから、4度目の真夏を迎えていた。上空からの日差しはどこまでも強い。
「いざ尋常に勝負、いくぞ」
「
意を決した声が、聞こえるはずもない互いの操縦席にこだまする。
ほんの一瞬、相手の動きの針の糸のような呼吸と集中の隙を見逃さなかった
「ぐうぅぅ……」
「ワッツ!?」
マスタングの視界からは、一瞬で
そして
好機は1秒が長すぎるほどの一瞬。翼内の20ミリ機銃弾を一気に叩き込むと、左の1機は右翼から、右の1機は左翼から火を噴く。同時に
「よし!」
翼から炎に包まれて墜落してゆくマスタングを見下ろしながら、気合いとともに
激しく呼吸をしながら、
度重なる空戦で既に高度は7,000メートルを超えていたが、しかしその動作で酸素吸入マスクが外れてしまった。
「……っ!?」
ガクン、と
――ソータさん……ソータさん!
失われた意識の中。
「……
目を開いた
「なんっ……」
何が起こっているのか瞬時には理解しかねた
「うおおぉっ」
ばしゅぅぅぅ……
海水が翼を大きく叩く。
辛うじて海面ギリギリで機首を起こした
まだ顔が青ざめているのが、自分でも分かる。
九死に一生を得た
緊急発進のため満タンで離陸する余裕はなかったこともあるが、エンジンオイルの質がとことん悪く、量が少なく貴重な燃料も、品質が落ちてオクタン価が低いため、燃料の減り方も激しい。上は節約しろとは言うが、燃料を節約した挙げ句に堕とされては本末転倒、無理な相談だった。
「燃料と弾の補給、頼むぞ」
「ハッ」
何せ
最近は食料事情も悪くて食事も十分ではなく、さすがに全身ぐったりと疲労してしまっている
風には潮の匂いがかすかにある。淡い青と深い蒼、白い雲が織りなす滑走路からの景色を、
――海に墜落しそうになったあの時。
小さい頃の、とても懐かしい声に助けられた。
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