第32話 責任
上山高校文化祭一日目反省会。
一同が生徒会室に集まり、会議が行われた。
副会長の東城が口を開く。
「まずご挨拶を。本日はお疲れ様でした。大きなトラブルもなく一日目を終えられたことに感謝いたします。それでも明日に向けて何か小さな事でも解決し、より晴れやかな気持ちで文化祭を終えることができるよう、ここに反省会を設けます。では、安藤先輩から発言をお願いいたします」
高校生らしからぬ司会進行を見せる東城に周りが少し苦笑いをする。東城は至って真面目なのである。
ふられた安藤先輩が口を開く。
「客観的に見れば文化祭は成功したと言わざるを得ません。お客様も終始楽しむことができたでしょう。だがしかし、お祭りには余興も必要! ただ楽しむだけでは物足りなさが浮き彫りになってしまいます! そう、だから私は一興を設けました。壮大なフリで場の空気を盛り上げようとしたのに、なぜ断ってしまったのかな岡島君?」
安藤先輩が僕を挑発するように見つめてきた。
「確かに余興は必要だと思います。でも内容があんなものじゃ、ごく一部しか喜びませんよ」
「それでもあそこではYESと言うべきだった。成就させるのがあなたの役割でもあったのよ」
武田先輩が僕の主張を否定してくる。
そうだった、そのごく一部がすぐ近くにいたんだった。
「僕の人権を失うリスクを負ってまでやりたくはありません!」
「なあ素直にならないか岡島君?」
「――素直です」
このままでは僕が責められるだけで拉致があかない。話題転換が必要だ。
「一点集中じゃ時間も足りなくなります。ほ、他に良かった点や悪かった点はありますか?」
「そういえば出店ゾーンで聞いたのですが、なにやら食の女神なる人物が現れたとか」
「ああ確かに聞いたな。グルメリポーターでも来たんじゃないか?」
「それは興味深いね。どうだろう、その人を利用して来場者数を増やせないだろうか?」
「あまり他人をだしにするのは喜べませんけど」
「ここは学生らしく派手にやろうではないか!」
「そだねー。会長はどう思う? ……会長?」
武田先輩の呼びかけに応じず、ボーッと斜め上を見つめる霧咲先輩。
数秒して皆が自分を見ているのに気付くと、
「え、ああ、そうね。良いと思うわ……」
どこか上の空の霧咲先輩。
あんな魂が抜けたような霧咲先輩は初めて見る。いったいどうしたのだろう?
◇◇◇◇◇
「ただいま〜。どうしたんだ杏子?」
家に帰ると、杏子がソファに寝転がり、いつも以上にぐだっていた。
下着が見えそうでだらしない。
「お兄ちゃん……おかえり~。文化祭行ったけど、お兄ちゃんに会えなかったよ~」
「来てたんなら連絡くらいしてくれれば良かったのに」
「そんな状態じゃなかったんだってば~。はあ疲れた」
がくりと力尽きた兵士のようにへたる杏子。
下着が見えてしまってだらしない。
「食べすぎたみたいよ」
「母さん、ただいま。食べまくった結果がこれというわけか」
「この子なりのストレス発散方法なのかもしれないけど、食べすぎでウシさんみたいに丸くなっちゃわないか心配だわ」
「出荷されないように気を付けないといけないな」
「出荷されたら、お兄ちゃんが買ってくれるんでしょ?」
「さあな~」
「お兄ちゃん、ひ~ど~い〜! もう今日はお兄ちゃんのベットに潜り込んじゃうんだから!」
「それは勘弁して」
僕は杏子を軽くあしらい、荷物を片付けるために部屋に向かう。
そして着いたや否や、疲れ果てベッドに倒れこむ。
文化祭の運営側というのはこんなに疲れるものなのか? 霧咲先輩は生徒会長の立場。疲労は僕の比ではないはず。
元気がなかったし、体調が悪いのかもしれない。
明日はサポートに徹することにしよう。
翌朝、文化祭二日目。
生徒会室に着くと、霧咲先輩が一番乗りで椅子に座っていた。
「おはようございます。霧咲先輩」
「おはよう、オカピ」
「やっぱり元気なさそうですね。体調が悪いのなら――」
「あなたには関係ないわ。今日も頑張りましょう」
なんだか冷たい気がする。もしかして昨日、僕がからかったことが関係あるのか?
「霧咲先輩、もしかして――」
「頼もおおお!」
大きな声を上げて生徒会室にやってきたのは、走ってきて息切れ気味の安屋敷だった。
「どうしたんだ安屋敷?」
「た、大変なの! 火事よ! 外の屋台!」
「なんだって⁉」
「霧咲先輩急いで対処を……先輩?」
先ほどまで椅子に座っていた霧咲先輩の姿が見当たらない。辺りを見回すと、机の脚の後ろから手が見えた。
「――霧咲先輩!!!」
霧咲先輩が倒れていたのだ。
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