第3章〜秋〜

第30話 文化祭開催! 食の女神現る?

 文化祭一日目。

 これでもかというくらい大勢の人がここ上山高校を訪れていた。

 校舎前の広場に立ち並んだ屋台から大きな声が飛び交っている。


「いらっしゃいませー! おいしい焼きそばはいかがですかい?」

「いえ、結構です」

「あ、え……そうですか……」


 焼きそばの定員が私の塩対応に意気消沈してしまった。

 ところで、お兄ちゃんだと思った?

 残念! 杏子でした〜!


 私は今日、ローカルアイドルのお仕事で上山高校の文化祭、上山祭の取材にやって来たのです。ぬわしっ!

 気合いを入れ直したところで、私はスタッフさんとともに文化祭を練り歩く。

 私も少し人気が出てきたのか、手を振ってくれる人も少なからずいる。


「あ、杏子ちゃん? 良かったらクレープとかどう?」


 一人の男子生徒が私に声をかけてきたのかと思ったらイチゴのクレープを差し出してきた。

 私は受け取らないつもりだったが、スタッフさんがこれでいこうとカンペを出したため、仕方なくクレープを受け取る。

 そして、カメラが回る。


「では、さっそく文化祭で売られている食べ物をいただきます。まずはこちらのイチゴのクレープをそちらの男子生徒さんに無理やり渡されてしまったのでこれから行ってみます……うん、高校の文化祭レベルにしてはまあまあですね。イチゴと生クリームだけでは貧相に感じがちなので、少量のイチゴジャムとチョコを入れてあげると少し豪華さが増すと思いますのでぜひ試してみてください」

「は、はい! ありがとうございます!」


 なんか食レポじゃなくてアドバイスになってしまいました。でもスタッフさん的にはOKが出てるから良かったらしい。

 これで良いんだったら今日の仕事は楽かも?


「あの、うちのも食べてみてください!」

「こっちも!」

「これもお願いします!」


 私を取り囲むかのように自分たちの屋台の食べ物の試食を依頼、いや強要してくる。あっという間に群がってきた。

 私は別にアドバイスしにきたんじゃないのにぃ〜。

 これじゃあゆっくり回れないよお。

 助けてお兄ちゃぁぁぁん!


☆☆☆☆☆


 お、なんか校舎前の広場に人が集まってるな。有名人でも来たのかな?

 僕は自分の教室から休憩がてら外を眺めていた。

 僕のクラスは定番のカフェをやっている。お店の名前は『のんびり和カフェ』だ。ウェイトレスの服装はもちろん和服である。

 これを提案したのは柚希で、その理由は学校一和服が似合う東城がいるからだ。

 東城の接客は誰よりも気品があり、まだ始めたばかりなのに人気に火がつき、いわゆる看板娘と成り果てていた。

 おかげで教室前の廊下には長い列ができてしまい、ちょっとした繁忙状態だ。


「さてと、そろそろ働くか」


 僕は料理ができるということで、キッチン担当としてクラスに貢献しているのだ。


「いつまでサボってんのよ。早く手動かしなさい」


 そう小うるさく言ってきたのは、同じキッチン担当の安屋敷である。

 接客が嫌だからと、自ら裏方に回ったらしい。

 安屋敷のオラオラな性格からして接客は無理だろう。みんなが口を揃えて言うはずだ。

 別に悪いことではない。接客が合わないというだけだ。


「なんか今ものすごく失礼なこと考えてなかった?」

「い、いや別に……それよりもうすぐで当番交代だろ? あとは僕が引き継ぐよ」

「あら優しいのね。それじゃあ遠慮なく」

「どこか行きたいところがあるのか?」

「ええ、この学校のおばけ屋敷のレベルを体験しに行かなくてはならないわ」

「そういうの好きなんだな」

「好きというか、文化祭のアトラクション的なものっておばけ屋敷くらいじゃない。せっかくの祭りなんだから満喫しなきゃ勿体無いわ」


 そう言いながら安屋敷は教室を出ていった。

 満喫ねえ……僕もどこに行くか決めておかないとな。


 一時間後。

 当番交代となり、自由時間が訪れる。

 教室の前で立ちながらどこに行こうかと塾考していると、教室から柚希と東城が揃って出てきた。


「あ、涼ちゃん! もしかして、晴れて自由の身に?」

「その通り」

「涼太様も拘束が解かれたのですね。どちらに向かうおつもりですか?」

「まだ決めかねていて……二人はどこに行くの?」

「今からね、ぐだぐだと食べ歩きして、そのあとは体育館でやる演劇でも見に行こうかと思ってるの。涼ちゃんも行く?」

「そうだな。特に行きたいところもないし、一緒に行こうか」

「はい、参りましょう」

「よし、行ってみよ〜!」


 そんなわけで妙にテンションの高い柚希といつも通りの東城と一緒に文化祭を回ることになった。

 校舎を出て広場に向かうと、立ち並ぶ屋台から食べ物の良い匂いが漂ってくる。

 働いて疲れたせいか、嗅いだだけでお腹が鳴ってしまいそうだ。


「あ、焼きそば食べたい! お兄さん、一つちょうだい!」

「へい、お待ちどうさま。ぴったりね、まいどー!」


 屋台におっさんがいるのかと思ったが、うちの生徒だ。板についてるなあ。


「みんなでつまもう! いただきまーす! うましっ!」

「どれどれ……うん、うまい!」

「美味しいですね。美味です」


 高校生の文化祭でこんなに美味しい焼きそばがあるなんて。いったいどんな作り方をしているんだ?


「お兄さんこれうますぎない? どうなってんの?」

「ああ、さっきがうちの焼きそばに魔法をかけてくれたんだ。つまりアドバイスだ」

「食の女神様?」

「魔法?」

「そうそう。カメラ持った人とか周りにいたから、取材かな? このあたりの屋台の食べ物にアドバイスをしてくれたんだ。そのアドバイスが全部的確でな? おかげで三倍増しくらいうまくなっちまったんだよ。ホントありがてえな」

「へえーすごい人なんだね、食の女神様」


 やっぱり有名人が来てたんだな。僕もちょっと会ってみたいかも。


「そうとなれば、この辺りの屋台は全部うまいってことだよね? 制覇だね」

「柚希様、あんまり食べすぎると演劇を観てる途中に眠くなってしまいますよ?」

「大丈夫だよ、まりりん。私は大食いだから」

「人の話を聞けよ……」


 柚希のグルメ魂に火がついた。


☆☆☆☆☆


 休憩中、スタッフさんがお水を渡してくれた。


「杏子ちゃん、大丈夫?」

「……うぷっ。ちょっと食べ過ぎたあ……全然、楽じゃなーいっ!」

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