第19話 相応しい生徒会長

 僕は立ち上がり、霧咲先輩がいるステージに登った。

 全ての視線がこちらに集中し、何をするのかとざわついている。

 重ための空気の中、霧咲先輩が僕をステージのど真ん中へと誘う。


「いい? 私に合わせなさい」


 そう僕にだけ聞こえるような小さな声で呟き、霧咲先輩は僕の手を取る。

 僕は引っ張られるように霧咲先輩の横へと並ばされた。


「みなさん聞いてください。これは合成です。私はこのような事実、記憶にございません」

「じゃあ証明しろよー!」

「いいでしょう。実はここにとある動画が入ったUSBメモリがあります。これを今から再生します」


 霧咲先輩はポケットからUSBメモリを取り出すと、それを僕に渡して再生するように促してきた。

 僕はパソコンを操っていた桑原副会長の元へ行き、パソコンにUSBメモリを挿す。

 そしてその中に入っていた動画ファイルを再生させた。

 スクリーンに映し出されたのはどこかの部屋。

 生徒会室だろうか。


「よし、うまくできたぞ〜。これで会長の周りに群がるハエどもが消えて、会長はひとりぼっち。そんな会長に、華麗に手を差し伸べるのがこの俺! ドラマティックな展開で甘々な生活が始まるのだあああ! おっと想像しただけでよだれが……」


 動画に映っていたのは、合成写真を作っている桑原副会長だった。

 そして隣にいる桑原副会長は顔を青ざめながらブツブツと呟き始める。


「ま、まさか、見られていたなんて……ど、どうしよう……俺はこれからどうすれば――」

「みなさんご覧になりましたか? これで私の無実が証明されました。そしてこのような場で不適切なものをみなさんにお見せした、そこにいる桑原副会長には私を含め、先生方からしっかりとした教育を施していきたいと思います。どうか今回はお任せください」


 霧咲先輩は深々と一礼した。


☆☆☆☆☆


「本当にやってくれましたね。あなたのせいで学校の評価はダダ下がりよ。どうしてくれるの?」

「…………」


 報告会の後、僕と霧咲先輩、東城、桑原副会長は生徒会室に戻った。

 重い空気のまま報告会は終わり、非常に後味の悪い結果に。

 霧咲先輩が椅子に座って下を向く桑原副会長を問い詰めるも、終始無言。

 霧咲先輩はあきれたようにため息をつく。


「なんであんなことをしたのか話してもらえる?」

「……こいつが悪いんだ」


 桑原副会長はボソッと呟きながら、僕のことを指差す。


「こいつが会長と遊んでいるから、邪魔してやりたかったんだ」

「そうですか、あなたは私のことを好いているということね」

「なっ!」


 そういうのって普通自分で言いますかね?

 その自信はたぶん世界レベルだ。


「安心しなさい。私はあなたのこと好いていないから。嫌いだから。より嫌いだから」

「……あ……」


 言葉を失う桑原副会長。

 さすがにそれは言い過ぎだと僕は思う。

 その時、生徒会室のドアがコンコンとノックされる。


「桑原ぁ、いるのか? ちょっと話をしようか」


 先生の声だ。たぶん桑原副会長の担任の先生だろう。

 桑原副会長は大人しく生徒会室を出て、先生とどこかへ消えていった。


「――東城さん。ちょっといいかしら?」

「はい。なんでしょうか?」

「あなたに生徒会副会長をやってもらいたいのだけれど……」

「わ、私がですか⁉ そのような大事な職務を私が引き受けてもよろしいのでしょうか?」

「むしろあなたが適任なのよ。桑原くんのせいで生徒会はおろか、学校の品位も下がってしまったわ。あなたの力を貸して欲しいの」


 東城に手を差し出す霧咲先輩。

 東城は僕の方を見てどうすればいいのか迷っていた。


「東城がやりたいと思うならやってもいいんじゃないか? それを決めるのは僕じゃなくて東城自身だ」

「涼太様……わかりました。ご期待に添えるかどうか不安ですが、副会長の任をお引き受けします」


 東城は霧咲先輩の手を握り、笑顔で微笑んだ。

 こうして上山高校新生徒会が発足した。

 ドSの生徒会長と履いてない副会長って……この学校、ヤバくないか?


「そういえば、あの写真は結局使わなかったですね。いつ使う予定だったんですか?」


 写真というのは、僕と東城が資料作りをしている際に見たとんでもない物のことだ。

 中身は、校長先生のカツラがずれている瞬間。

 あんなものを出したら、大問題になっていただろう。


「あれは許可をいただいたものです。ちゃんと了承を得ているから問題ないわ。本当なら最後に笑いを取ろうと思っていたのだけれど、桑原くんのせいで台無しよ」

「なんで笑いなんか取ろうと思ったんですか?」

「なんでって、あんな退屈な報告会なんて嫌でしょ。私だって嫌です。だったら最後にお楽しみコーナーくらいあってもいいじゃない」


 霧咲先輩はせっかく準備したのにと悔しがっていた。

 ちゃんとみんなに気を配ることができるそんな先輩だからこそ、支持されて当然なのかもしれない。生徒会長に相応しいのだろう。


「写真はいろいろあってどれも面白いのに……あ。安心して。ちゃんとあなたのスクープ写真もあるから」

「それ、今すぐ消して下さい!」

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