第18話 ヤンデレの復讐
「なかなか良い出来ですね。私は正直驚いています。こんな才能があるなんて」
生徒会活動方針報告会の前日の放課後。
僕と東城は霧咲先輩の元を訪ねていた。
場所は体育館のステージ上。明日霧咲先輩が登壇する場所だ。
明日使う資料を見せたところ、好印象の様子。
「ごくごくシンプルに作っただけですよ。それに僕は指示をしただけであって、作ったのはほとんど東城みたいなものです」
「お恥ずかしいかぎりです……」
東城は恥ずかしそうにもじもじして頰をほんのりと赤く染めていた。
霧咲先輩は感心したように頷くと、そっとパソコンを閉じる。
「霧咲先輩、一つ質問をしてもいいですか?」
「何でしょうか?」
僕はその場を立ち去ろうとした霧咲先輩を呼び止めた。
「今回の報告会でいったい何をする気なんですか? 最後のあの写真……あれは――」
「あなたが気にするようなことではありません。気になるのであれば明日を楽しみにしていてください……」
そう言い残すと、霧咲先輩は僕たちの前から立ち去った。
とりあえず仕事は済んだため、僕たちは荷物を取りに教室へ戻ることにした。
「結局あの写真の真実は分からずじまいか……」
「明日の本番を待つしかないですね……」
「何かがあってからじゃ遅いんだよなあ」
僕は苦い表情を浮かべながらも、霧咲先輩だから大丈夫だろうと安心してしまう。
逆に言えば、霧咲先輩が失敗をするなんてことがあるのだろうか?
いつも醸し出している自信満々なオーラは伊達ではない。彼女を見たことがある人なら誰もが感じるはずだ。
まあ心配する必要はないはずだ。
霧咲先輩が失敗するなんて、柚希の髪が金髪になるくらい……あ。今、金髪だった……なかったことにしよう。
「あれって柚希様じゃないですか?」
「ん、どれ?」
東城が指差す先には確かに光り輝く髪をした柚希がいた。
そして誰かと話している様子。
あの顔は……副会長っ⁉
なんで柚希と桑原副会長が……?
謎の組み合わせに驚愕していると、その二人はすぐに別れてしまった。
いったい何の話をしていたのだろう?
あの二人の接点が全くわからない。
「おーい、柚希!」
「あ、涼ちゃんっ! まりりんも!」
「今の桑原副会長だよな? 何の話してたんだ?」
「たいしたことじゃないよ。ただ荷物が重そうだったから手伝ってあげただけ」
「なんだ、そういうことか。接点あったかなあって思ってさ」
「ないない。そういうことにしといて〜。今帰るの? なら一緒に帰ろ」
笑顔で話す柚希が嘘をついているようには見えなかった。
そう、この時は……。
生徒会活動方針報告会本番。
霧咲先輩がステージへ登壇する。
僕と東城は地域住民の誘導を終え、自分のクラスメイトがいる席へと戻って報告会に参加していた。
意外にも多くの地域住民が参加していて、この体育館の人口密度は高くなっている。
少しだけ蒸し暑さを感じた。
僕と東城が作った資料をスクリーンに映しながら霧咲先輩がマイクを通してわかりやすく説明していく。
さすが生徒会長といったところか。本当にうまくプレゼンをこなしていた。
順調に説明をこなし、いよいよ最後のページに差し掛かる。
最後には僕が気になった例の写真がある。
あれをいったいどのように使うのか。
「それでは最後に、こちらから提案をさせていただきます。こちらの写真をご覧ください」
スクリーン上に例の写真が映し出される。
なんだこれ……?
写真が変わってる……?
スクリーン上に映し出された写真を見て誰もがざわつき始めた。
霧咲先輩もスクリーンを見て異変に気付いた様子。
「これ……会長?」
「会長が誰かを脅している?」
「こんな子が生徒会長なの? この学校の教育はどうなっているんですか?」
「あーあの、落ち着いてください!」
ざわつきが次第に大きくなっていき、先生たちが場を収めようと対応するも、収拾がつかない。
「これは間違いです! 合成写真でしかありません! 私にこのような事実はございません!」
霧咲先輩が訂正をしても、何も届きはしなかった。唇を噛みしめ、下を向いてしまう。
あんな霧咲先輩を見たことがない。
「これであの人は終わりだね……」
隣に座っていた柚希がそう呟いた。
僕は柚希の方を向くと、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
――その顔は、笑っていた。
「お前がやったのか?」
「私じゃないよ。私はただ情報を提供しただけ」
「まさか副会長に……」
「そのまさかだよ。よかったね、涼ちゃん。これであの人から解放された。涼ちゃん、おかえり。やっぱり涼ちゃんには私がついてないとダメなんだよ……」
「いくらなんでもやりすぎ――」
「何を言ってるの? 涼ちゃんのためにやったんだよ?」
「僕のため……?」
「ぜーんぶ涼ちゃんのため。私はいつでも涼ちゃんのことを考えてるの。私が休んでたのもあの人を……あの邪魔者をどうやって潰してやろうかって……」
「ふざけるな! こんなことをして……」
「なんで怒るの? ねえ嬉しいでしょ? ねえ? ねえ? 嬉しいよね? 嬉しいって言って!」
柚希は立ち上がり、僕にどんどん迫ってくる。
柚希の顔は完全に病んでいたのだ。
狂気に満ちているというか、微笑んでいるというか……。
もうどうすればいいんだ……。
「――岡島涼太っ!!! ステージに来なさい!!!」
マイクのせいで耳が痛くなるくらいの声が体育館に響き渡る。
霧咲先輩がステージへ上がれと命令してきたのだ。
こんな状況でいったいどうする気なんですかっ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます