第17話 金髪の友人?会長の目的?

 桑原副会長に霧咲先輩の恋のライバル宣言をされた次の週の月曜日。

 昼休みの教室で自席に座りゆっくりとくつろいでいた僕の前に現れた人物の風貌を見て、僕は驚きを隠せずにいた。

 キラキラと輝く金色の髪へと変化を遂げた見慣れた顔。こちらを見下ろすように立ち、周りに注目されてもたじろぐ様子はない。


「久しぶりだね、涼ちゃん」


 僕をその名で呼ぶ人物は一人しかいない。

 そう、僕の目の前に現れたのはあの一件以来、顔を見せることのなかった柚希だった。


「お、おはようございます……」


 なぜか敬語になってしまった。しかも今は昼だ。

 柚希は僕の机に両手をつき、前のめりの状態で何も言わずに僕の目をじっと見つめる。

 ふいに柚希の顔が近くなったため、僕は思わず赤くなった。


「前に会った時よりもだいぶ印象が違うな……急に不良みたいに……」

「何を言ってるの? 私はいつも通りだよ。一週間休んだけどね」

「一週間でこんな髪色に染まる理由が知りたいよ。それにみんな心配してたんだぞ? 先週霧咲先輩も気にかけて……」

「……霧咲先輩? またあの人に会ったの?あんまり迷惑かけちゃダメだよ? あの人も忙しいんだから……ね?」

「――もしかして柚希様、ですか?」

「あ!まりりんっ!久しぶりー!」


 ここに柚希がいることに気づいた東城が自席で声をあげると、フリスビーで遊ぶ子犬のように柚希が東城の元へ走り出す。

 今の柚希に対して、霧咲先輩の名を出すのは失言だと後悔したが、そこまで気にしてはいない様子だった。たぶん……。


 翌日から柚希は普段通り学校に来るようになり、髪色以外は特段変わったところはなかった。

 このまま何もなければいいのだが……。


 金曜日。

 霧咲先輩に頼まれた生徒会の仕事を手伝う日。

 俺は東城を連れて生徒会室を訪れていた。


「まさか、生徒会のお仕事を体験できるなんて光栄ですっ」

「まあ、正確には手伝いなんだけどね……」

「そう思ってもらえると、こちらとしても嬉しい限りです。これから私の下でどれ……頑張ってください」


 今この人、奴隷って言いかけたよね? 言い直したよね?

 聞き逃さなかったのはどうやら僕だけのようだった。生徒会室にいるのは僕ら三人に加えてもう一人、例の桑原副会長だ。

 入った時からずっと睨まれているような気がする。

 そんな桑原副会長をチラッと横目で見た霧咲先輩は、僕と東城の役割の説明を始めた。

 僕らには発表する際の資料作り、会場整理をやってほしいとのこと。

 今回は全校生徒に加えて地域住民も参加することになっているため、その誘導が必要らしい。


「資料はどういう感じで作ればいいんですか?」

「素材は用意してあるから、シンプルなものを作ってくれればいいわ。それを見て私が説得力のある話をするので」


 すごい自信だ。余裕綽々といったところか。

 そこで桑原副会長が口を開く。


「生徒会長、それは危険ではありませんか? いくら会長がすごくても、この男が良からぬものを作ることもありえます。ここは私が資料を――」

「あなたの出る幕ではありません。私の人選が間違っているというのですか?あなたが私を否定するなんて珍しいですね……」

「ま、まさか……単なるアドバイスにすぎません。わ、忘れてください……」


 桑原副会長はやってしまったという表情を無理やり押し殺そうとしながら引き下がる。

 霧咲先輩の冷たい目。鋭く突き刺さるような感じ。あれは怒っていると思って良いのだろうか?


「本番は来週の水曜日ですので、それまでに完成していれば問題ありません。期待していますよ。それでは私と桑原くんは生徒会の活動があるので失礼します。ここも閉めますので、どこか空いている教室で製作をお願いします」


 僕と東城は生徒会室を出て、僕らの教室へ向かった。

 席に着き、霧咲先輩から借りたPCを立ち上げる。


「東城はPCの操作に慣れているのか?」

「はいっ。エロゲで培った技術がありますっ」


 聞かなければよかった。


「素材はあるといっても、実際のところどういうものを作ればいいのか悩むな」

「露出の多い女の子を出せばイチコロですよっ」

「東城はいったい何と戦っているんだ? 却下だ。地域住民も来るんだぞ? そんなもの出したら苦情どころの騒ぎじゃないぞ」

「愛があれば、どんな逆境だって乗り越えられますっ」

「残念ながら地域住民は東城と同様の愛は持ち合わせてないからな」

「ショックですね……今回はダメでもいつか必ずやり遂げてみせます」


 よくわからないけど、絶対に阻止します。


「さっさと作っちゃおう。まずは素材のチェックから……ん? な、なんだこれは⁉」


 僕と東城はPCの中にとんでもないものを見つけてしまった。これが校内に知れ渡ったらどうなってしまうんだろうか?

 霧咲先輩はいったい何をするつもりなんだ?

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