第16話 勝手にライバル

「嬉しい報告、まってます……」


 そう笑顔で東城に言われた。

 これは部活をやりたいという東城の頼みに対するものだ。東城には借りがあるため、必ずしも良い結果を届けたい。

 僕は放課後、部活の申請をするため、あの人がいる生徒会室を訪ねたのだ。

 なんだか久しく会っていない気がするが、今日こそはあの人のペースに流されないように頑張ろう。


「失礼します……」


 生徒会室のドアを開けて中に入ると、生徒会長の席にその人はいた。周りを見渡したが、他の役員はいないようだ。

 視線を戻すと、生徒会長はこちらを見て不気味な笑みをこぼしていた。


「一体何の用かしら、オカピ?」


 久しぶりにオカピって言われた。間違いなく霧咲先輩だ。


「今日は部活の申請をしようと……」

「あら、自分の部活を作る気? いったいどんな如何わしい部活なのかしら?」

「如何わしい前提はやめてくださいよ! だいたい、これは東城のために――」

「黙りな……えっ?」


 いつもならねじ伏せられる僕の言い訳を聞いて霧咲先輩のお決まりのセリフが途中で止まる。

 霧咲先輩は困惑した様子で僕の顔を見つめる。


「オカピ、あなたは随分あのお嬢様に肩入れしているのね」

「別に肩入れなんてしてませんよ。東城には借りがあるだけで……」

「ふーん、そうなの」


 なんだ? 妙に素っ気ないな。いつもならバンバン僕を追い詰めるのに。


「まあいいわ。それでいったい何の部活を作るのかしら?」

「あ、えーっと、実は何か楽しいやつとしか決まっていなくて……」

「完全に案が固まっていない状態で、この生徒会室に乗り込んでくるなんて、意外と肝が座っているじゃない」

「すみません、霧咲先輩に案を出してもらおうかと……」


 一人で考えてみたものの、結局どんな部活がいいのか、まとまらなかったのだ。

 東城に聞いてみようとも思ったが、今やりたいことを聞いてしまうと、高確率でエロゲをやりたいと言うに違いない。

 さすがに学校でやるにはリスクが高すぎる。

 そこで霧咲先輩に相談しようと思い、今に至る。


「それは私の言ったことは必ず成し遂げるという解釈で間違いないかしら?」

「その解釈はとてもじゃないですけど、斜め上すぎます」

「私にはそう聞こえたのだけれど?」

「あくまで参考程度にということなんですが……」

「あら、つまらないわね」


 つまらないと言われてもなあ……。霧咲先輩の言うとおりにしてしまうのは、考えなくて済むという点で楽ではあるものの、霧咲先輩はきっと鬼畜なものしか言わないだろう。

 それでも一応生徒会長なのだから、頼らざるを得ない。


「じゃあお嬢様を生徒会に勧誘しなさい」

「え、僕は?」

「何を言っているの? あなたはすでに生徒会のペットでしょ?」

「あれは冗談では?」

「私が冗談を口にしたことがあったかしら?」


 今まで言ったことは全部本当だと言い張れる自信がすごい。というか、生徒会のペットになれっていうのは完全に脅しだ。訴えれば勝てそうな気がする。


「じゃあ勧誘するとして、役職は空いているんですか?」

「あったはずよ」

「はず?」

「あったわ」

「無理やり作ろうとしてませんか?」

「疑り深い男は嫌われるわよ」


 たまには追い詰めてやろうと思ったが、さらっと流されてしまう。


「今度全校生徒の前で今年度の活動方針を発表しなければならないのだけれど、それの人手が欲しいの。期間限定で生徒会に入るというのはどうかしら?」

「それは良い案ですね。僕も期間限定で生徒会に入れるなんて光栄です」

「あなたはペットだって言ったでしょ? 人の話を聞いてないのかしら? やっぱり首輪が必要かしらね……」

「それだけは勘弁してください」


 僕は瞬時に頭を下げた。

 僕が社会的に終わってしまうと理解してしまったのだ。


「それじゃあ来週の金曜日の放課後、ここにお嬢様と一緒に来なさい。詳細はその時説明します」

「わかりました。ありがとうございます。失礼しまし――」

「ちょっと待ちなさい。あの小娘はどうしたのかしら?」

「小娘? ああ柚希のことですか。それがあれ以来引きこもってるみたいで……」

「そう。あの程度で引きこもるなんて……もういいわよ。私も今日はオカピと遊んでいる暇はないの。今度じっくりねっとり遊んであげるわ」

「あははー、お手柔らかに……」


 僕は苦笑いを浮かべながら生徒会室を後にした。

 出てすぐに後ろから肩をトントンと叩かれる。

 振り返ると、そこには見知らぬ男子生徒が立っていた。どうやら上級生のようだ。

 そして僕の顔をじっと見つめて、眉をひそめる。


「えーっと、なんでしょうか?」

「お前、ずいぶんと霧咲生徒会長と仲が良さそうだな」

「あー、まあ成り行きで……」

「……羨ましい」

「えっ?」

「俺も霧咲生徒会長と仲良くなりたい。なぜ余所者のお前が俺よりも仲良くなっているんだ?」


 なんだ、この人?

 もしかして怒っているのか?


「俺の名前は桑原くわはらのぞむ。生徒会副会長だ! お前に霧咲生徒会長は渡さない! 覚えおけ!」


 そう吐き捨てると、桑原さんはどこかへ去っていった。生徒会室には入らないのか?

 というか、あの感じ……。

 まさか、恋敵にされたっ⁉

 また厄介なことに……。

 来週の金曜日に生徒会を手伝うことになっているから、必然的にまたあの人に会うことになる。

 勘弁してください……はあ。

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