第11話 オモイ一撃
大勢の人の群れが円柱型のアトラクションを取り囲む。
僕たちが向かったアトラクションの看板にはこう書かれていた。
『僕と一緒にクルクルしないかい?』
『煩悩寺のベン』の正体はメリーゴーランドだった。
このキャッチコピーが売りになっているらしいが、ちょっとバカだろ。
これもまた東城のお父さんが考えたのだろうか。
他にも普通のメリーゴーランドとは変わった点がある。
メリーゴーランドの白馬の目がいわゆるエロ目なのだ。
名前に煩悩が入っている理由はたぶんこのためだろう。僕の感想は気持ち悪いの一言だ。
「涼太様? 何故かここに来てから、どこからか多くの視線を感じてしまいます……」
そんな顔を赤らめて言われても……。
しかし、周りを見渡しても大勢の人はメリーゴーランドのほうを向いていて、僕たちを見ているようには見えない。
ということは……。
あの白馬のエロ目の影響か。
本人はたぶん、あれがエロ目だとは理解していない。本能的に何か感じてしまっているのだろう。
「東城はまだ社会勉強が足りないらしい」
「何のことでしょうか?」
「……気にしなくていいよ」
僕たちはこの人混みの中、杏子たちを探す。
こんなに人がいたら、東城とも逸れてしまいそうだ。
「東城、僕の後ろから離れるなよ……って、手遅れだった……」
振り返った時にはもう東城の姿は見えなくなっていた。
はぐれてしまったものは仕方がない。
とにかく、誰かしらと合流しなくては。
僕は人混みを掻き分けるように前へと進む。
その時突然、僕の右手はガシッと何かに掴まれた。いや、正確には誰かにだ。
だが、その姿は人混みの影響で見えない。
僕は恐る恐る掴まれた右手を思いっきり引っ張ってみた。
すると、僕の右手を掴んでいた人物の姿が明らかになる。
「お前か……」
「ぐすんっ……お、お兄ちゃぁぁぁぁん!」
涙目になりながら、僕の胸に飛び込んできたのは杏子だった。
「おい、いいのか? 今、外だぞ?」
「……こうやって顔隠してれば私だってわからないでしょ?」
「まあそうだけどさ……。それで、みんなとははぐれちゃったのか?」
「……そうなのだ。……霧咲さんと柚希姉が言い合いしなきゃこんなことにはならなかったのだ」
「霧咲先輩と柚希が? いったい何があったんだ?」
☆☆☆
お兄ちゃんがお姉さまを追いかけていった後、私たちは『煩悩寺のベン』に向かった。
照りつける太陽に奪われた体力を回復するなら、白馬に乗って風に当たればいいという考え。
その時はまだ人も少なくて、すぐに乗ることができた。
「なんで涼ちゃんがいないの? おかしいよね、白馬さん……」
「宮原さん、急で申し訳ないのですが、あなたは岡島くんを束縛したいのでしょうか?」
「束縛? なんでそうなるんです? 私は涼ちゃんとずっと一緒にいたいって思ってるだけで……」
「果たして、岡島くんもそう思っているでしょうか?」
「どうしてそんなこと言うの? 生徒会長はなんで私に突っかかってくるの? ねえなんで? ねえ?」
「――それが、岡島くんの望みだから」
柚希姉はそれを聞いた途端、まるで時が止まったかのように硬直した。
間違ってはいない。
けれど、今の流れからではニュアンスが変わってしまう。
霧咲さんがわかっていないわけがない。
わざとだ。
「あーあ。やっちゃいましたね」
「これが最善策だと私は考えました。私はどちらかというとSなのかもしれませんね……」
不敵な笑みを浮かべる霧咲さんはまるで悪い魔女のように妖艶なオーラを放っていた。私は少し悪寒を覚える。
数十秒後、柚希姉が口を開いた。
「今日はもう帰ります……」
「なぜですか? あと数時間すれば、夜のパレードが始まりますよ?」
「あなたと一緒にいたくないから……」
「それはなぜでしょうか?」
霧咲さんは、にやっと笑いながら、あえて質問を投げる。
柚希姉の眉がピクッと動く。
「はっきりと言わなければわかりませんか? あなたが嫌いになりました!」
「私が悪者ですか? 私はただ岡島くんに頼まれたから、こんなことをしているだけですよ?」
「それでもあなたが嫌いなんです! 大っ嫌いっ!」
柚希姉は思いっきり叫ぶと、白馬を降りてどこかへ走り去ってしまった。流れ落ちる滴を残しながら。
「……わがまま。本当にわがままで醜い……めんどうだわ」
霧咲さんはそうブツブツと言いながら、相当イラついているように見えた。
「あ、あのー、霧咲さん?」
「あら、すみません。取り乱してしまいました。私も少々疲れてしまったようです。それに私の役目も終わり……」
「今ので成功なんですか?」
「あとは自分で崩れていきますよ。岡島くんの力も多少は必要になると思いますが……。それでは、失礼します」
霧咲さんは白馬から降りて私に一礼すると、柚希姉と同様どこかへと去っていった。
……取り残された。
どうしよう。人もさっきより増えてきたし……。
――プルルルッ!
お兄ちゃんから電話だ。
良かった。お姉さまとはうまく和解できたのかな?
まあいいや、お兄ちゃんにとことん甘えるとしますか。
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