第8話 匿われるT記者
上毛新聞社の誠意のない態度に溜飲の下がらない母は、その後も電話による抗議を繰り返した。母の友人の中には母以上に憤慨する人もいたらしく、抗議はほとんど中断することはなかった。
しかし、上毛新聞社は記事の誤りを頑なに認めない。母の電話がある程度の上役に通じた際など「記事に誤りはない」と自信満々に返されたと言う。
母はこの上毛新聞の返答に対し、第三話で指摘した3つの矛盾点(『工場、自宅失った夫婦』、『自動車部品製造工場と併設する自宅を一挙に失った夫婦』、『一気に炎にのまれた』という記述が、k氏宅と我が家の誤認であるということ)を突きつけ、実際に上毛新聞社の社員が再び現地に来るようにと促したが、彼らが再び現地を訪れたかは定かではない。
実際に訪れてみれば全て解決するはずであるのにだ、2月13日の時点であれば、我が家はすでに解体作業を終え、残骸すら残さず完全な更地となっていた。対して上毛新聞曰く一気に炎に呑まれたk氏宅はガムテープなどで割れた窓ガラスが固定されているくらいで健在であった。
母は、現地に来てほしいと上毛新聞社に説いた、特に誤報を書いたT記者にと要求した。しかし、上毛新聞は当事者であるT記者を矢面に立たせることはなかった。ミスをした社員を庇うというのは会社としては立派かもしれないが、抗議を通して、T記者が1月10日付けの上毛新聞で燃えあがる我が家の写真とともに、最初に火事の報道をした記者であると知った母の怒りは収まらなかった。
1月9日、消火活動が行われる最中、感情を逆なでするように火事の現場を走り回り、我が家の断末魔を撮影したあの若い記者が、なぜこのような致命的な誤認をしたのか、母の心にはそれがひっかかったのである。
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