家出の計画

なつのみ

憧れ

子供の頃から先生になることが夢で一生懸命勉強してきた。

特に高校受験のときは死に物狂いで頑張ったなぁ。

市内成績上位の高校に受かって担任の先生に「お前ならきっといい先生になれるさ」と勇気づけてもらったのを覚えている。

今日は教育実習生として地元の中学校へ訪れていた。

俺が担当するのは二年一組の生徒達だ。

「今日から2週間、先生としていたらぬ点は多いですが年が一番近い先生としてみんなと仲良く出来たらと思ってる!どうぞよろしくな」

「「よろしくおねがいしまーっす」」

元気のいいクラスだ。なんとか楽しくやっていけそうだな。

「それでは川上先生、私が前半の一週間授業の手本を見せるからよく見ておくように」

「はい、楽しみにしています」


授業をいちばんうしろから眺めていると誰が何をしているのか丸分かりだな。

一時間目が始ったらすぐ寝た奴がいた。

こいつは数学を睡眠の時間とあらかじめ決めてやがるな。

うとうとと起きようとするも眠気に勝てない子、ノートにいそいそと板書をしっかりする子個性豊かだ。

そして俺はとある子に目をつけた。

正直田沼先生の授業はお世辞にもわかりやすいと言えないがそれでもきちんと板書を取って誰よりも意欲的に授業を受けている子が目立ったのだ。

名前は・・・橘さんか。

中学二年生ではすでに成績の差は歴然と付き始めているのがわかる。

今日わかったことは田沼さんの授業はあんま参考にならなかったのと寝てる奴に指すと授業がルーズになるからやめたほうがいいってことかな。


翌日三時間目

「今日は昨日の僕の授業を参考に実際に授業をやってみてください」

「はい。厳しいご指導よろしくお願いします」

教団に立つと今までにない緊張感が襲ってきた。

足が震えている。

「それではじぎょおをはじめます」

かんじゃった。

生徒たちは不意打ちにクスクスと笑っていた。

ふと橘さんをみたら可愛く微笑んでいた。

正面から見た橘さんは周りより少し大人びて見えて俺にとっては心のオアシスになった。

「それじゃあここわかるひとー」

授業で挙手を募るには最近の子供にとって結構な苦行らしい。

かくいう俺もそうだったからな。

わかりそうな人を当ててやるか。寝てる奴に当てても時間の無駄だな。

「んー橘さん答えられる?」

「ひゃぅっ!?わっ私ですかぁ!?」


いきなりさされて驚いたのか変な声が出てしまっている。

「あ、すまん。出来そうだと思って・・・」

「すいません、わかりません」

とんだ恥をかかせてしまった。

「あ、あぁ・・・ここはだな」

授業はぎこちなかったがなんとか終えることができた。

時間は過ぎて帰りのHRも担当して連絡事項を一通り話終わったあと、俺は教室を出ていった。

「先生、川上先生」

廊下で誰かに声をかけられて後ろを振り向くと橘さんだった。

「橘さん、授業のときは済まなかったね」

「いえ、大丈夫です。それより質問があるんですけど時間いいですか?」

「いいよ。俺に答えられればなんでも」

気づくと辺りはいつのまにか静かになっているようだ。誰もいない。


「わたしの気持ち、わかってくれますか?」

その声を聞いた途端体中に不安感が突き抜ける。

周りを一度見回して不自然に感じるも橘さんに目線を戻す。

「えっと、授業のこと?それともほかに何か?」

「先生に相談したいことは勉強じゃなくてわたしのことなんです。できれば悩み相談に乗ってくれませんか?」

おぉ、学校の先生になりたかった夢の理由のひとつに大人として生徒の悩みを解決してやるのがあったんだ。

しかもその初めての相手が橘さんとは願ったり叶ったりだよ。

「よしきた、なんでも話してくれ」

「ありがとうございます。川上先生ならそう言ってくれると思っていました」

橘さんがスマホを取り出して何かをいじっている。

画像とかでも出すのだろうか?

ピッと電子音がスマホから聞こえた瞬間、一瞬視界が歪んだ気がした。


疲れているのか?

「先生、いまわたしが先生と私の立場を入れ替えさせていただきました」

「え?立場?それはどういうことだ」

「わたしの気持ち、わたしの悩み、知ってほしいから体験してください」

さっぱり意味がわからなかった。

「立場を変えるというのはつまり何が変わるんだ?」

「そのままの意味です。わからないことがあれば記憶を探ってみてください。わたしはすでに先生の記憶を読みました」

「記憶を呼んだ?ますます意味が・・・」

「では先生の高校時代の思い出を思い浮かべてください」

「え、いきなりそんな」

「はやく!」

「お、おう・・・」


高校時代の思い出といえばやっぱり三年生の修学旅行だよな!沖縄の海は綺麗だったなぁ。

「橘さんはいま何年生だっけ?」

「わたしはいま二年生だよ」っていうか川上先生が担任やってるくせになんで聞いてきたんだろ・・・。

「なんの行事思い出してたの?」

「え・・・しゅうが・・・。」

あ、わたしまだ二年生なのになんで修学旅行の話考えてたんだろう。来年が待ち遠しくて妄想しちゃってたのかな。

「橘さんはどんな夢があるの?将来の夢」

「あう・・・恥ずかしい」あまり人には言いたくない。

「恥ずかしくないよ。先生は橘さんの役に立ちたいんだ。それがどんなものでも」

「じょ・・・」

「じょ?」

「女性警察官です」

「なんだ、立派な仕事じゃないか」


あれ?わたし・・・おれ?なんで俺が先生・・・じゃなかった、橘さんに悩み相談しているんだ?

「ちょ、ちょっとまって!」

「あ、戻っちゃった?」

「戻ちゃった?ってわた、俺は川上だ!なんで橘さんみたいに話していたんだ・・・」

「立場を入れ替えたからだよ?」

「だから、立場って一体ぁっ・・・!?!?」

いきなり間合いを詰められて俺の胸あたりに手を添えられた。

「どう?感じちゃった?」

添えられただけなのになぜか俺の男の胸が過剰な反応をしていた。

「なんなんだいまの感触は」

目の前の橘さんは顔を近づけ上目遣いで口を開く。

「女の子の感触だよ」


「女の子の感覚?まさか、俺の体が橘さんになってるとか?」

「惜しいなぁ。でもちょっと合ってるよ。橘さんって結構突飛な考え方できるんだね」

「だから俺のことを橘さんって呼ぶなよ。遊んでるんならもう帰るぞ?」

「あーうん、帰ってもいいけど立場が入れ替わってることを忘れないでねー。ちょっとわたしの記憶引き出したから一人で帰れると思うけど」

「引き出した?さっきから全然話についていけないんだが」

「女の子は夜道に気をつけるんだよ」

そう言われてもちっとも違和感が沸かなかった。

俺はしぶしぶ教室に戻り学校指定のバックを持って帰りの準備をする。

「はぁ・・・立場を入れ替えるってそもそもどういうことなんだよ」

「はいはい、時間が経てばわかるってば。困ったことがあったら明日の放課後に話を聞いてやるから」

喋り方がいままでの橘さんとは違ってやけにぶっきらぼうは感じだ。

しかも違和感が仕事をしないせいでそれが普通に思えてきてしまう。


「とりあえず今日は支度をして帰りな」

ドアに腕をかけて寄りかかる姿は成人男性の風貌に感じ、喋り方とかそこに存在しているはずの橘さんが橘さんじゃないように思える。

立場が入れ替わると言っていたのはそういうことかもしれない。

しかしいきなり胸を触ってくるとか悩みを聞いてもらう相手に対する行動じゃないよな。戻ったら少し怒るか。

先程のスマホを取り出してまた何かをいじっている。

「さようなら先生」

俺は一週間前から教育実習に来ていた川上先生を見つけて反射的に挨拶した。

「あぁさようなら、気をつけて帰れよ」

なんでか知らんがニヤニヤとしている。なにか変なことをしたか?

教室を出て階段を下り昇降口に着く。

自分の場所の2218と書かれた場所を開いて上履きを脱いで靴と入れ替える。

そうだ、昨日新しく買った靴だから新しいんだ。


ピンクを基調とした可愛らしいスニーカーでも中学生の女子なら未だに履きこなせる。

これは俺が選んだものではなかったが案外気に入っていた。

外に出るといままで校舎に人気を感じていなかった分部活している人たちを見て安心する。

校門を出て10分ほど歩くと俺の家があるんだけど正直帰りたくなかった。

「ん?なんで帰りたくないんだっけな・・・」

記憶を探ると親同士の仲が悪く八つ当たりや愚痴を俺に浴びせてくるんだ。

信頼できる兄こそ居るが受験のせいで俺に構う時間は無く最近は・・・。

「はぁ、やだなぁこんな人生」

ついつい漏れてしまう。父親がパチンコ中毒でいくらお母さんが夜中まで働いてもすぐに消えてなくなってしまう。

そのせいで昨日まで履いていた靴は3年間使っていたんだ。

三年間って言うと短いのかな、でも子供の3年間は成長期のせいですぐにサイズが合わなくなって大変なんだよな。

だから兄の靴を履いていて女の子っぽい今の靴に憧れていた。


「できるならいまの人生誰かに代わってもらいたい」

通学路に合った車用のミラーが視界に映る。

あ、そういえば俺は男じゃないか・・・。

鏡に映るのは若々しいがれっきとした成人男性の俺だ。

しかし靴の色がおかしいのに気づいてすぐに視線を降ろす。

靴の大きさは俺の足にぴったりだから余計におかしさが増す。

ガールズシューズに27cmの靴があるだろうか?それに履いているのは俺だが。

「ピンク色の靴・・・?あ、昨日お母さんに買ってもらったんだっけ」

さっきまでの違和感が嘘のように消えた。

別におかしくないよな?俺だってまだちゃんと女子中学生なんだ。こんな靴でも似合ってるはず。


再び歩き出してやっと家に着く。

ちょっと古びたアパートで階段が錆びていて怖い。

不安からか少し尿意を催した。

内股になりつつもゆっくり手すりを持ちながら歩いてゆく。

家の前にたどり着いてドアの鍵を開けてはいる。

「ただいまー」

学校ではうって変わって家庭での俺は元気な妹を演じている。

「おかえりふたば、いつもより遅いじゃないか。まさか遊んでいたわけじゃないだろうな?」

「そんなことないよパパ、ちょこっと勉強でわからないところを先生に質問してただけ」

「ふん、だったらまあいい。さっさと仕事をしろ。うちには金がないんだ」

父親はテレビから目を離さず話していた。


俺の仕事はこの時間も働かずにいる父親のパチンコの為の資金稼ぎだ。

LIN○やTwit○erを使って稼ぐんだが詳しいことは省く。

しかしこんな父親のために金を稼ぐなんて腹の虫が収まらない。

でも稼ぎが悪いと半年前には腹いせに俺をレイプしようとしてきたんだ。

中学に上がる前から発育の良かった俺は大人の男性の手では収まってしまうもののそこそこの胸があった。

娘の俺を性的な目で見るなんてどうかしてる。

それでもそんな体験は恥ずかしくて家族や他人に打ち明けることもできず自分の記憶にしまったままだ。

半年経った今、俺の体は第二次成長期を迎え女の子っぽい体になっている。

こんな時に稼ぎを落としたら今度こそレイプされるだろう。

恐怖の中でも続けるしかない。


テスト期間中も父親が原因で勉強もままならない。

寝る間も惜しんで勉強していた時も父親が仕事で疲れている母親に向かって野次を飛ばしたり無視する態度に腹が立ってわたしのところへ・・・。

兄も勉強しているわけだが、イヤホンを耳にして気にせず続けている。

「いつものことだから」

虚ろな瞳で俺の期待を裏切った。

「いい大学に入っていい仕事についてくれれば立派な稼ぎ頭になってくれるだろう」

という理由で父親は邪魔をせず俺に白羽の矢が立つ。父親にされることは思い出したくもない。

寝不足で授業が頭に入らなくても意地でノートを取っていた。

表情から辛さが読まれないように無心でも笑みを浮かべていた。

放課後になったらすぐに家に帰るよう言われているせいで友達付き合いも少ない。

辛い。


川上先生がクラスに来る前の日のこと、お金を稼ぐサイトとは別に不思議なサイトを見つけた。

立場を交換します。

そう書かれてその下に人間のシルエットの絵が二つ並んで間に左右に矢印がついた記号があった。

一番初めに想像したものは父親と立場を交換するものだったけど交換がどういうものかわからないままでもし父親のカラダと入れ替わりでもしたら気持ち悪くて死にたくなる。

サイトを読み込んでいくとQ&Aの欄があって自分の聞きたかったことが書いてあった。

Q 体を交換するということですか?

A いいえ、言葉の通り立場を交換いたします。副作用として交換側の立場に引きずられ因果が補正しだして体が変化してしまうことはあります。

そう言う意味では体を交換するという見解は間違いではありません。どういうものか気になる方はここの体験談をクリックしてください。

体験談の文字が青くなっていて別のページに移動するみたいだった。

わたしはもう興味津々で進めていった。


読み進めていくうちに体を交換するわけではなく立場を交換するという言葉をなんとなく理解できるようになってきた。

体験談の一つには「立場が入れ替わったあと、その立場の人間でしかできないことはできるように体、もしくは記憶、技能が調整される」とある。

他には「相手の立場に逆らうことなく受け入れると記憶も調整されて交換前の人格に近づく」ともある。

誰と立場を交換しようか悩んでいた。

わたしは頭が悪いのではないのだと思う。単純に勉強が足りない。あの父親のせいだ。

友達と変わる?それでは罪悪感が強い。誰か・・・誰か知らない人なら。

そしてなるべく関わらない人。

とりあえずひとりここで考えていても仕方ないかなと思って寝ることにした。

次の日学校に行くと担任の田沼先生が一人の男性を連れてきた。


教育実習生、そうだ。この人なら二週間で縁がなくなるし立場を入れ替えたら地方に逃げてしまえばいい!

偶然か必然か、悩んでいる前に格好の人間が現れてくれた。

顔は冴えないけどいい人そうな表情だしこの人の立場も悪くないかも。

それからは観察として川上先生の動向と隙を探っていた。


夕飯は俺が作る。

いつものことだ、カレーを作ろうと思って出した包丁が目に入る。

「ん?」

包丁に映った知らない男は不思議そうな目でこちらを見ていた。

顔を傾けると同じく包丁に映った男も傾ける。

「え?これが俺?」

冴えない顔立ちに女子高生に似つかわしくない顎鬚。

慌てて洗面所に向かって鏡を見に行く。

「あっ川上先生!」

川上先生?俺のことじゃないか。何を不思議に思ったんだ?

声はいつもどおりなのに何故か不自然に低く感じる。

服装は家に帰ってからスーツから普段着に着替えていた。

「うわっなんだこれ!?」

着ていたのは平べったい男の胸にブラ、レディースTシャツとジーパンだった。


ジーパンの下には・・・ショーツ・・・?

もっころとした俺のアレはショーツなんかに包み込めるはずがなくジーパンの裏地に直で当たっているため違和感が半端ない。

もはやいままで気になっていなかったのが不思議で仕方ないくらいだ。

なんでこんなことになった?思い出せ、思い出せ。

そうだ、橘さんだ。立場を入れ替えたとかなんか言ってたがこれと関係が?

「おい、飯作らないで何してるんだ?」

「あ、ごめんパパ。すぐもどるよ」

俺の声でなよなよとした言葉が出てきた。

いまのは頭で咄嗟に浮かんだものだ。橘さんのお父様に正体がバレないようにした行動ではない。

しかも今の俺の姿は元の俺の体そのもので正体がそうこうのレベルな問題じゃなはずだ。

現状整理と共に料理をしようとキッチンに戻ってくる。


カレーのつくり方がわからない。

はずだった。

川上という立場の俺はいまだ実家で過ごしているため食事はほとんど作ったことがない。

はずなのに。

手が動く。次に何をすればいいか、効率よく動く。

まるでいつもやっているかのように。

俺は手先が不器用だったがいまは野菜の皮を剥いだり包丁を扱ったりが熟練されたような手さばきで動いている。

いままでできなかったことができるのは悪いことじゃない。

でもそれが教えてもらったわけでもなく見て学んだわけでもないものだとわかると言い表せない不安感が全身を震わせる。


喋り方も変だしやはり俺は橘さんの代わりみたいな状態なのか?

カレー作りがひと段落ついた。

それを知ってか知らずかピンクのカバーがついたスマホが鳴った。

「電話?090・・・俺の電話番号だ・・・」

もしかして橘さん?

「もしもし」「もしもしー川上ですけど」

「いや、川上は俺だろ」

「あーそうだったそうだった。どうですか?わたしの家は」

「どうもこうも、俺の立場ってやつを返せよ!」

「それは嫌です」

「なっ・・・」

「わたしが許しません。戻りたくありません」

「戻りたいとかの問題じゃないだろう?俺の意向無しに話を進められたって困るんだ」

「だったらどうするんですか?」

「訴えてやるよ。手加減はしないぜ?」

「別に構いませんけど。どうせ信じてもらえませんよ。だって見た目は男ですがいまの川上先生はわたしとして認識されるんですから」

「ぐ・・・」

なんとなく予想はついていたがやはりそうなのか。

「先生には大人しくわたしの代わりになってもらいます。ちなみにすでに先生の声はわたしそっくりであることに気づいていますか?」

「えっ」

言われてみて意識してみたら確かに声は若い女性のような高さだった。

まさか気づかない間にいつの間にか体が変化していたりするのか?

のどの辺りを触ると喉仏が殆ど無くて恐らく見た目にも影響は出ているんだろう。

いつからだ?

「先生、実は立場を交換してから抵抗せずに過ごすと体の方はどんどん変化して辻褄が合うようになるんです」

辻褄、言い換えれば因果か何かが俺の今の立場と体の矛盾を合わせようとしていると捉えればいいのか。

「どうすれば変化が進行しない?」

「あはは、わたしが教えると思います?」

確かに、橘さんは俺に橘さんの立場の代役をやらせようとしているんだ・・・答えるわけがない。

「本当に戻ることはできないのか」

「そうですね、川上先生がわたしのいまの生活から救ってくれるなら戻りますよ。立場を入れ替えた理由は家庭の問題ですし」

「わかった。ちゃんと教育委員会やら市役所とか相応の依頼は俺が引き受けてやろう。だから戻してくれ」

「信じると思います?」

「本当だ!わかってくれ、俺にだって未来はあるんだ・・・」

「なるほど、でもわたしだって未来が心配なんですよ・・・だからこそ先生の未来を奪っちゃいけないってこともわかっているんですけど」

ん?まさか折れてくれたのか?

「わかってくれたか?」

「はい、先生に無理に立場を押し付けるのはいけないことだと改めて感じました」

「そうかそうか」

橘さんが話のわかる優等生でよかったぜ。一時はどうなることかと。

「でもこの状況って結構不思議ですよね?」

「うん?確かに非現実であるからな、俺も始めはなんのことかわからなかったぞ」

「だからちょこっと遊んでみません?」

「遊ぶ?」

「そうですよ。いまの状況は生きているうちにもうあるかないかわかりませんよね?」

「あぁ・・・そうだな」

「ですから試しにどうしたら変化するのかやってみません?」

うーん・・・ここはあまり乗り気ではないがやるしかないだろうな。

立場を交換するといっても主導権は橘さんだしここで変に機嫌を損ねたらさっきまでのやり取りが白紙同然となってしまう。

ここは少し乗っておいて機嫌を損ね無いようにするべきかな。

「いいだろう、実は俺も気になっていたところだったんだ」

「嬉しいです。ちなみにもうすでに先生はわたしのことを川上先生だと認識していると思います」

「ん?そんなことはないけど」

「今日帰る直前のこと覚えてますか?」

もしかして二人きりの時のやつか?胸を触られてから橘さんが俺に見えて俺も自分が橘さんのような気がして・・・。

それにスマホをいじってるのを認識したあとあの時は違和感とか無く自然になったいたような。

「あぁ、俺の胸を触ってきたときのことだろう?」

「あの時にはもう先生の胸は女の子の、わたしの胸になっていたんですよ」

女の子の胸になっていた?っていうことは膨らみでもあるのかと自分の胸を触ってみたが平らで特に変わった様子はないみたいだ。

「先生、揉んでみてください」

「え?自分でか?」

「はい、女の子の胸を揉むように2、3回くらい」

恐る恐る両手で胸に手を当てて優しく揉んでみた。

「うわっ」

その瞬間触られている感覚と手には柔らかい感触が伝わりすこし膨らんだように服が盛り上がる。

「はうっ」

3回目にピクっと乳首に電流のような感覚が流れて先が固く尖った。

「感じちゃったんですか?」

「あ、あぁ・・・」

電話越しでは声しか伝わらないと油断してそのあと数回揉んでしまった。

自分の体とは言え立場は女子高生のものだと言うことを思い出すと情けなさに囚われる。

「先生、先生はいま女の子の声なので喘ぎ声出されると先生の立場であるわたしは結構苦しいものがあるのですが」

そうか、俺が橘さんの立場であると同時に橘さんは俺なんだ、女子中学生の喘ぎ声なんて聞かされて動揺しないはずがないか。

「そうだ、気になっていたんだけどさ・・・」

「はい?なんでしょう」

なぜだか主導権は年上の俺じゃなく橘さんなんだよなぁ。

やけに大人っぽいから敬語でなだめられたりしたら俺のほうが幼く思えてしまう。

「えー、俺は橘さんよりも15センチくらいも高いわけだけどさ、女子中学生の制服がぴったり着れていたしいまも普段着のサイズが俺用なのはなんで?」

「それは元から先生がわたしでわたしが先生ってことになっているからだと思います。まだ身長の変化はないんですね?」

「ん?そうだけど」

「わたしの兄は確か先生よりちょっと低いくらいなんですけどわたしの立場である先生が兄を見下ろす身長なんておかしいですよね?」

そう言われた瞬間視線がスーっと下がっていった。

「うわっ身長が縮んだ!」

「やっぱり、恐らく体の変化は矛盾箇所が現実に影響を及ぼすようなことがないようにするために起こるようですね」

「そういえば橘さんのお父さんに話しかけられたとき俺じゃないような言葉が出たんだ」

詳しくは口調、それと何故か自分が本当に娘のような気持ちになって話していた。

「わたしは先ほど先生の実家に帰った時家の柱に成長の印って言うんですか?幼い頃から柱に何歳の頃はここまでっていう線を見た瞬間に身長がぐんと伸びました」

「橘さんの体の変化はどれくらいなんだ?」

「わたしの声でその口調ではなされるとなんだか落ち着きませんね・・・女の子っぽく話してくれませんか?」

「は?やだよ、俺は好きで女になろうとなんか思ってないんだ。それには答えられない」

「わかりました」

ん?やけに素直に諦めたな。

「では協力いただけないようなので立場を戻す話は打ち切りということで」

「うわー!待った待った!やるよ、女口調で話すからそれはやめろって」

予想以上の甲高い声が出て流石に違和感を感じた。

それに油断したらすぐに立場を戻すのをやめそうだぞこの子。

「じゃあ私はこれから女口調で話しますって言ってください」

「あ、あぁ・・・。わ、私はこれから女口調で話します」

そう言葉にすると頭の中に無数の情報が押し寄せてきた感覚に陥った。

「うわわっなんだこれ・・・」

「どうかしましたか?橘さん」

「いま私の頭の中に一杯言葉が溢れて来てって・・・あれ?自然に言葉が出てくる」

「それも変化の一つではないでしょうか?恐らく女口調で話せるようになるための知識が"元々備わっていた"ことになったんですよ」

「そ、そうなのかな」

「不安なのはわかりますが立場が戻ったらまた普段通り生活できると思うので安心してください。私がついてますよ」

「でもなんだか女の子の喋り方しようとしなくても自然に口に出るようになって不思議な気分」

「わたしもやってみますね、俺はこれから男口調で話します・・・うぐっ」

「だ、大丈夫?川上先生」

俺はこの時すでに電話の相手を川上先生と呼ぶことに違和感を感じなくなっていた。

「あぁ、橘さんが言ったとおりというか別人物の記憶を押し込まれたような感覚だ」

その声は大人にしてみると低くはないが立派な男性であるものだった。

「私の声で女の子の喋り方してたのが変な感じだったのでそうしてくれて嬉しいです」

「あぁ、協力してくれてるわけだし俺も同じ立場にならないとフェアじゃないと思って」

川上先生って優しい人だな・・・。

あ、やばい。まじで自分のこと橘さんかと思ってしまっていた。

協力すると言ったものの記憶自体なくなる可能性もあるわけだし自分は保たなくちゃな。

「あっ」

「次はなんだ?」

「トイレ・・・どこ」

「おしっこか、トイレならお風呂場のドアの反対側にあるよ」

なんだ、おしっこって言われただけですごく恥ずかしいぞ。

今までそんなことなかったがこれは橘さんの立場だからなのか。

それにしても早く行かないと。

「ちょっと恥ずかしいから電話切ってもいい?」

「おっとすまなかった、じゃあまたかけ直してくれ」

「はい」

うぅ・・・まずい、いま気がついたがこの状況だと体が変化してしまうかもしれないから座ってするしかないのか。

トイレの場所を橘さんに聞いたけどなんとなくここが自分の家なような気がして自然と迷わずに来ることができた。

ドアを開けてフタを開ける。

スカートをどうすればいいかわからないからとりあえず変化を見てみようと外してパンツを降ろす。

いまにも出そうなおしっこを我慢しながら「遊び」を楽しんでいた。

「これは遊びだよ、変化の具合を教えれば喜ぶかな」

先ほど数回揉んだ胸が邪魔して屈まないとアソコが見えない。

まだある・・・。

股間に入れていた力をゆっくりと抜いていくと我慢していた尿意が一気に押し寄せてきた。

するとすぐに決壊して放尿するかと思ったけど予想外に収まっていった。

もう出ていってもおかしいはずなのにしゅるしゅると体の方へと戻っていってしまう。

「うぐっ」

その変化のすぐあとにお腹の中が妙な蠢きの感覚と重たい痛みが起こった。

生えていた陰毛が薄れて袋と玉が股間の中に消えていってしまった。

少し苦しくて息が切れてるみたいで意識ははっきりしているのに自分が自分じゃなくなっている現状に色んな感情が頭を埋め尽くしている。

袋が中まで入り込んだと確認してそのあとに自分でもわかる女の子の割れ目ができていた。

お腹の蠢きが収まって女の子のものに変化が終わった瞬間強い尿意とともにおしっこが出ていった。

「はうぅ・・・」

開放感が襲う。

それは快感と何も変わらないもので気持ちが落ち着いてきた。

「あぁ・・・これでもう男と主張できるものがない」

腕と足はまだ若干筋肉質だった。これはどうやって変化させればいいんだろう。

胸を揉んでみると揉むたびに少しずつだけどまだ大きくなるみたいだ。

最終的には橘さんくらいになるのか。

変化と放尿がひと段落済んでほっとしていた。

「ん?」

太ももに置いていた手が細く小さくなっている。

「あれ?何かしたのかな・・・いつのまに?」

一瞬腕と太もも、ふくらはぎ、お腹など変化していなかった箇所が一度に軽く震えたような気がした。

「あれ、あれれ」

腕を眺めていたら一目瞭然、ムダ毛が消えて筋肉質だったのが一気にしなやかで柔らかそうな白い肌と変わった。

同じように脚も、女の子らしい白っぽい肌に変わり全体的に女性らしい曲線の体になった。

「いきなりなんで?アソコが女の子になったから?どうして一度に全部が・・・」

顔が火照っているのがわかる。

変化の影響か肌が敏感に空気を感じ取っているからだろうか。

とにかくいきなり変化が終わってしまったのを橘さんに報告しなくちゃだな。

どうせすぐに変化を聞かせようとしてたわけだし。

そう考えながら慣れた手つきで後始末をして水を流す。

パンツとスカートを穿き直して家族に不思議に思われないようにいつもどおりを装う。

若干急いで自分の部屋に戻った。

ケータイを取って川上先生・・・橘さんの番号にかける。

数回の呼び出し音。

「はいはい、そろそろ来ることかと思ったよ」

橘さんの優しそうな声色、落ち着いた喋り方、それは残して本来自分である俺の声は不思議と安心させられるものだった。

「遅くなってごめん、実は大変なことが起きたんだよ」

「・・・大変なこと?」

「うん、・・・おしっこしたらアソコが変化するっていうのは予想できてたんだけどそのすぐあとに体が一気に変化してまんま橘さんになっちゃったんだ」

「へぇ、俺の裸見たんだ?」

「へ?」

「だってそれがわかるってことは見て確認したんでしょ?おまんこも見たんでしょ?」

「そ、それは・・・ごめん」

「興奮しないのか?先生、男だろ?」

「うーん」

あれ、そうだ・・・いくら女子高生とは言え橘さんはまあまあ発育のいい体だし本来なら興奮するのか?

それにアソコの変化を見てたのにも関わらず欲情が湧いてこないとか俺って・・・。

「くっ・・・あははは!」

電話越しに橘さんがいきなり笑い出した。

「え?何がおかしの?」

「いいや先生が実に真剣に考えてて笑っちゃったんだ。これは遊びだよ?もっと楽観しなよ」

「そうは言っても・・・」

「そうだ、こんな状況なんだしせっかくだから先生オナニーしてみれば?」

「えっ!?おっオナニーって橘さんの体で?」

「そうそう、こんな機会めったに、いやこれ以降は無いよ!いいじゃん俺ももう試したんだし」

「ええっ!?たっ・・・橘さん私の体でなにしてるの・・・」

「だって先生がトイレで俺の体見ながら顔を赤くしてるの想像してたら滾って来たんだから仕方ないじゃないか」

「そんな・・・これは遊びだが女子高生の橘さんにそんなことをさせちゃったら教師としての・・・」

「じゃあそれも含めてオナニーしなよ!おあいこってことで相殺されんだろ」

「・・・そことこれとは」

「遊びって言ってたろ?だからこそだよ、な?」


正直俺は不安だった。

まず橘さんの変化、俺の立場になったあとの豹変ぶりは異常じゃないのか?

まるで自分の体じゃないかのように俺の橘さんの体を弄んでいるようだ。

それに俺自身の変化、普通の男だし並々に営みはしていたんだ。

女の子の体、しかも橘さんのような中学生にしても似つかわしくないくらい発達している体だ、興奮しない自分がおかしい。

ここはオナニーぐらいして自分は男で女の体に興奮するように行動したほうがいいんじゃないのだろうか。

遊びといってもこれは俺自身にとって機嫌を損なわないようにする戦なんだ、言う通りに従っていたほうが身のためかもしれない。


「わかったよ、どうすればいい?」

「その気になってくれたんだね、でも正直言って俺もその体じゃやったことないから先生の想像に任せるよ」

「そ、そうだよな」


胸を揉めばいいのか?

ん?ちょっと待てよ?電話越しだからやっているふりをすればやらなくてもするかもしれない。


「んっ・・・なっなにこの感覚・・・すごい・・・」

「いまなにしてるの?」

「むっ胸を揉んでますっ・・・あっんっ・・・」

「・・・」


どうだ?俺の演技は伝わってるか?

「なあ、俺のこと馬鹿にしてるんだったらいいんだぜ?元に戻らなくたって」

「え?」

「バレバレなんだよ、俺の胸は大きいけど揉むくらいじゃ喘ぐほど感じはしないんだよ。それに棒読みだったぞ」

「うわぁぁっごめん、ちゃんとやるから!待って!」

「うるせえうるせえ、そんなキンキン騒ぐんじゃねえよ耳が痛えだろうが」

「ごめんなさい・・・じゃあ、えっと・・・ちゃんと本当に胸揉みます」

「いや、罰としていきなりアソコを触れよ」

「えっ・・・」

「やれよ、嘘をついたバツだ、パンツも脱げよな」


これを断ったらまた戻さないとか言われるんだろう。

従うしかない。


「いたっ・・・うぅ」

「指を舐めて濡らせばいいだろ」

「・・・あっ・・・んぅっ」


やばい、これは想像以上に強い刺激だ。

特に突起物、クリに触るとそれだけで意識が飛ばされそうになる。

いつのまにか指を一本中に入れていた。

すでに俺は快楽の虜になっていた。

慣れてきたら後は早かった。

2本目も入れられてしまったのだ。

流石に3本目は無理だがそれだけでもやばい。


「そろそろ限界か?ほら、イっちゃえよ」

「んっんっ・・・あああっ!」


頭が真っ白になる。


「はぁ・・・はぁ・・・」


呼吸が整わない、刺激がまだ残っているようだ。


「まあ初めてだしそれくらいで許してやるよ。これからは俺が直々に相手してやるから嬉しく思えよ」

「・・・え・・・?」

「残念だったな、ゲーム終了だ」

「どういうこと・・・?」

「はじめから戻る気なんかなかったんだよ。実は立場交換して体の変化、心の変化が整うとそのまま固定、癒着して交換することはできなくなるんだ」

「そんな、騙してたのね」

「だから言っているだろう?初めから仕組んでたんだよ。うまくことが進んで助かったぜ。時期に記憶も元通りになるんだ、生活は安心しなよ」

「嫌だ、女の生活は嫌だ!」

「いいや、もう橘さん、君は女を受け入れてしまっているんだよ。その証拠にすぐに男とやることしか考えられなくなる。俺も早くその体とやりたいよ」

「嘘だ、俺は男なんかと!」


一瞬、男とやることを想像してしまった。


なぜだろう、勝手に妄想してしまった。


指なんかじゃ足りない、そう考えてしまった。


欲しい、もっと、欲しい。


だめだ、と頭で考えても不思議とそれが薄れてゆく。


これは自分の体、自分のものだ。


だから何したって自分の勝手。


おれの・・・わたしの・・・


手がアソコに移動していく。


指が動く。


「あんっっ!・・・!?なんで?指が勝手に!」

「あはは、そんなことはないよ。その体は君のものだ。君でしか動かせない。無意識に、いや、本能で快感を貪ろうとしているんだ」

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!嫌だ!」


リミッターが外れてしまったかのように体が言うことを聞かない。

いや、もしかしたら聞いているのかも。

言うことを聞かないのは私の心なのかも。

あれ?いつから悩んでたんだっけ、どうシよう・・・記憶が混乱シてきタ。

プツンと頭がまた真っ白になる。


「橘さん」


すぐ耳元で誰かの声がする。

男のヒト?

なんでだろう、隣にいるのカナ。


「橘さん」


そう、私は橘 双葉、そうだよね。

なんで呼ばれてるんだろう?

ナンデ?

「橘さん」


アァ、優シイ声ダナ。

コノヒトノ温モリニ抱カレテミタイ。

包マレタイ。


「なに?あなたは誰?」

「僕は君の担任、川上だよ」

「川上先生がどうして私に声を?」

「実は君のことが心配になってね、最近調子悪そうだったから声をかけてみたんだよ」

「・・・先生、私」

「どうしたんだい?悩みがあるなら俺が相談に乗ろう」

「家が、家が怖いんです」

「なぜ?」

「お父さんもお兄ちゃんも私を粗雑に扱うの、耐えられない」

「そうか、じゃあ一度先生が親に事情を説明してあげようか?」

「いや、それはダメ」

「なぜ?」

「先生に相談したのがバレたら私、もっとひどい目に合わされる」

「じゃあどうしたいんだ?」

「先生」

「なんだ?」

「私を・・・」








連れ去ってください。

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家出の計画 なつのみ @Natsunoming

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