第3話 モンスター討伐!?(下)


「おい……家なんてねえぞ」




 リリアレットが連れてきた場所にあったものは、カフェだった。




「あれ、おかしいなぁ。カフェだったっけ」

「お前、大丈夫か……」

「私コーヒー大好きだからさぁ」

「そんなわけあるか」



 どうせこいつのところだから道間違えたんだろうなぁ。

 


「住所とか地図とかないのか?」

「んーない!」

「事前に調べとけよ……」

「私の頭がここだと語っているのよ」



 頭とかそういう問題なのかコレ。

 そのカフェはすごくしゃれていて、依頼なんてなかったら入りたかったのだが、さすがに豚狩りするのだからリリアレットも行かないだろう。



「ねぇねぇここケーキセットあるらしいわ、行きましょうよ!」

「は!? さっきケーキ買ったからいいだろ」



 またケーキかよ、女子って甘いものは別腹とか言っているらしいが、本当にそうなのだろうか。いや、こいつがおかしいだけか。


 店の名前は“アデールカフェ”。多分アデールは店長か誰かの名前だろうな。割とそのままな名前で覚えやすい。



「初めて聞いた名前だなぁ、ここらへん来たことなかったし……ねぇねぇ、記念に一杯飲んでいかない?」

「だめだ。お前絶対そのまま酔いつぶれるだろ。依頼放棄しそう」

「なにそれ私お酒飲んでるおっさんみたいな言い方じゃない!」

「実質、そうだろ」



 リリアレットは毎晩酒を飲んでいる。

 俺はリリアレットの家に住まわせてもらっているのだが、毎晩23時を過ぎるとカエルの唐揚げをつまみに酒を飲んでいる。そして午前2時くらいを過ぎると、テーブルの上で寝ていることが多かった。そんな俺はリリアレットの姿を見て毛布をかけてやるわけでもなく、ベッドに運んであげるわけでもなく、横目で見て呆れて寝るだけだった。俺には関係ない。



「あ、あれは別にいいでしょ!」

「……まぁいいけど」



 この世界ではリリアレット曰く15歳以上で酒を飲めるらしい。この世界での酒は、ジュースの延長線上のようなものらしく、俺も少し飲んだことがある。現実世界でいう炭酸飲料だった。こっちでは炭酸飲料というものはなく、果実を絞った新鮮なジュースしかない。酒は炭酸が入っていて、若干アルコールが含まれているものもあれば、ないものもある。ただの炭酸飲料じゃねぇか。ちなみに、アルコール入りの酒は20歳以上でしか飲めません。



「じゃ、依頼が終わってから飲みに行きましょう」

「一応ここカフェだからな、酒場じゃないんだぞ」










「まちなさいよっ、このくそ豚ああああああ!!!」



 リリアレットが好き勝手に草原で豚と群れあっている。




「ちょっと、ヒビキも早く手伝いなさいよね!」

「わかってるから……」




 リリアレットは魔法を使うよりも、全力で走って捕まえた方が豚もうれしいでしょ、なんて言っていたが……今の状態は悲惨だった。


 豚は時速17キロくらいだとか聞いたのだが、人間よりはるかに速い。

 この世界の生物の時速があっちの世界と同じかはわからないが、人間は確か時速50~60キロだった気がする。それより早いから犬くらいの速さだろうか。犬は70キロくらいだったと思うが、豚が70キロなんて相当ありえない話である。

 リリアレットは豚もモンスターらしいのでそれもありかもしれないが。



「もう私ばっかりなんなのよ!」



 数匹の豚を追いかけるリリアレットのうしろに、10匹くらいの豚がついてきている。散歩しているようにも見えるが……あとの豚はそれぞれ自由にくつろいでいたり、じゃれあったりしている。



「はやくヒビキこの豚捕まえてよ!」

「Lv.4の魔法師の威厳はどうしたんだよ!」

「こんなに追いかけられたら怖いじゃない!」



 ったく、しょうがねぇな……


 俺は手のひらをリリアレットの後ろにいる豚に向けた。

 そのうちの3匹がかかった。

 俺の手のひらからでている謎の淡白い光のなかから、光の軌道がその3匹の豚をつらぬいた。そして、ゆっくりと目を閉じ、念を込めて唱える。



「キャプチャー」



 目を開けると3匹の豚は完全的に動かなくなって、ごろんと草原に転がっていた。



「でかしたわヒビキ!」



 そして、またイメージすると今度は手のひらに異空間が広がった。

 


「センド」



 そう短く唱えると、3匹の豚はまとめて空中に浮いて、異空間の中に消えた。


 リリアレットはこちらに向かってきて、親指をたてた。



「ぐっじょぶ」

「いいからその後ろに来ている豚をなんとかしろッ!」



 親指立ててるヒマあるならさっさとしやがれ。


 リリアレットは「うわああっ!?」と後ろを見て気づいたらしく、とっさに俺に背を向けて手のひらをかざした。

 向かってくる数匹の豚は、手のひらをかざした瞬間に察したのか、思いっきり逆走する。レベルが低い魔法師が相手だったならば逃げられたかもしれないが、相手はレベル4の強者。豚は逆走していたところを光によって捕まえられる。


 リリアレットの手のひらから放たれた閃光は、リリアレットに向かってきたすべての豚の動きを停止させた。

 俺は数匹の中の3匹しか停止させられなかったのだが、リリアレットは上級魔法師なのでやはり威力というものが違った。こういうところに才能の差を感じる。




「キャプチャー……センド」





 豚は同時に数匹がごろんところがって浮き、異空間へと飲み込まれる。その姿が少し可愛らしく見えたが、所詮はモンスターだから気にしない。


 リリアレットの凄腕に他の豚たちも恐れをなしたのか、遠ざかっていく。

 モンスターはモンスターでも、動物の本能ってやつがあるのか。



「ふっふっふ、恐れをなしたか豚諸君」

「そんなドヤ顔しなくていいいから早く討伐しろ」



 仁王立ちしてドヤ顔をするリリアレットの頭を軽くチョップした。



「いてっ」

「ほら、早くしてカフェ行くぞ」

「はーい」



 その後も一節呪文2つを唱えるだけの作業が続いたのだが……



 最後まで逃げ切った1匹の豚がいた。




「最後がこの子ね……」

「おいこいつ変だぞ、なんか逃げないんだが」




 この豚は俺達2人に見下ろされているが、勝気な顔でひるむことなくこちらを見上げている。決して逃げない。



「いいじゃないの、早く飲みに行きましょう」

「じゃあ最後やってくれ」




 リリアレットが目を閉じ、魔法を唱えようとすると、



「ぶう」

「……え?」

「……は?」



 その一匹の豚は俺の足元にすがりついた。

 


「ぷっ、豚に好かれてるなんてヒビキはモテなさすぎでしょ!」

「知るかよなんだこいつ……」



 リリアレットに腹を抱えて笑われ、豚はこちらをつぶらな瞳で見ている。



「ぶうぶう」

「ごめんな、生憎豚の言葉はわからないんだ」



 しゃがみこんで豚の頭をよしよしとなでてやる。

 豚ではないが、昔家に猫を飼っていたときがあったため、動物は割と好きである。基本的に俺はなにも家出することがなかったため、猫の餌やりとか散歩とかさせられていた。皆からは猫オタクとか言われていたりしたが。



「この豚、あんたから離れる気なさそうね。もう飼えば?」

「豚はお前の家で飼うことになるけど」

「それはちょっときついわね」

「だよなぁ」



 この豚、本当に離れる気ないのか足にしがみついていたのだが、肩にまで乗っかってきた。普通に重い……てか俺サト○かよ。こいつにビカチュウとか名前つけて、肩にのっけて旅でもしようかな。



「しょうがないわねー」



 リリアレットが豚に手のひらをかざして魔法を唱える。

 なんの魔法を使う気だコイツ。



「トランスフォーム」



 リリアレットの手のひらから放たれた白い光が、豚をつつんだ。


 次の瞬間、自分の体に重みが与えられた。



「うわぁっ!?」



 光のまぶしさで目がくらみ、急な重さに倒れこんだ。



「なんの魔法かけたんだよ、おま……!?」

「あら、可愛いじゃない」



 倒れこんだ俺の上に座っていたのは、桃色の髪をした美少女だった。

 一瞬、わけがわからなくなったがあれか、これ豚か。



「私が豚を人間に変えたのよ、すごいでしょう」



 薄桃色の春霞に覆われたような髪の毛を、耳より高い位置でツーテールに結っている。瞳はピンクオパールのようで、服は……



「ちょ、ちょっと待てお前服、服!!」

「しょうがないでしょ、豚は服なんて着てないんだから」



 一糸纏わぬ姿、まぁ裸体で俺の上に乗っていたのである。まぁこれはモンスターの擬人化だし、豚だし別に緊張なんてしてないぞ……!?



「ヒビキ、鼻血でてる」

「んなっ!?」


 

 鼻からでてきた赤い液体をぬぐうと、俺はふいと顔をそらした。



「てかどいてくれ、頼む」

「……わかりました」



 豚である少女はゆっくりと俺の上から退いた。



「リリアレット、お前のローブでもいいから着させろ。さすがにマズい」

「はいはい……はいこれ着てね」

「ありがとうございます」



 少女の声は耳元で優しくささやかれているような声だった。柔らかく、馬鹿でかい声をだすリリアレットとは違って、か弱い女の子のような感じだった。そうだな、ロリボみたいな感じである。リリアレットはゲスボ。



「っと、でどうするんだよ人間に変化させて」



 白の金の刺繍入った高価そうなローブを羽織った豚の少女。可愛いけどどうするんだよ、本当に飼うか? いやいや、でも放置するのもかわいそうだろ。



「んー、可愛いし性奴隷にでも……」

「させるかッ!」

「じゃあ野放しにする?」

「それもかわいそうだろ」

「だよねえ……ねぇ、貴方はどうしたい?」



 豚の少女に聞いてどうするんだよ。勝手に人に変えられて可哀想だ。

 少女は無表情でなにも心が読み取れない。その桜色の唇をゆっくりと開いて、鈴のような音色を奏でる。



「私は、ヒビキと一緒に居たい、です」

「お、俺の名前知ってるのか」

「さきほど、リリアレット……さんが言ってるのを聞きました」



 ヒビキ、鼻血でてる、とか言ってたリリアレットを思い出す。気持ち悪い、といった虫を見るようなゲス顔でこっちを見ていたなぁ。



「こう言ってるし……このまま人間の姿でパーティに入れましょうよ」

「んー、そうするか」



 別に仲間になるとかはどうでもいいから抵抗はないが、まずはこの子について軽く見てみよう。

 俺は少女に向かって手のひらをかざした。





名前:レイナ

性別:女

職業:?

魔法:?

所持金:0テール

資格:なし





 そりゃ、こんなものしかないよな。それ以外あったら驚きだわ。



「それでいいか、レイナ」

「はい、ヒビキといることができるなら喜んで……」



 ぺこりと俺達に頭を下げると、ツーテールがさらりと揺れた。

 リリアレットは妹ができたみたいで嬉しいのか、レイナの頭をわしわしと撫でた。若干嫌がってますけど。



「じゃあギルドに戻りましょうか」



 こうして豚のモンスターが仲間になりました。


 





 

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