第2話 半信半疑の資産運運用
結局あの後、何事もなく俺は四葉銀行を後にした。予想していたドッキリも、バースデープレゼントも一切何も登場しなかった。俺はなんだか肩すかしを食らったような煮え切らない気持ちと、緊張から解き放たれた疲労感で小さく溜息をつくと、銀行近くのカフェに入って休憩することにした。
カウンターでアイスコーヒーを注文して、俺は店内奥の端の席に腰を下ろした。ガムシロップをアイスコーヒーに入れてストローでかき混ぜながら俺は例のアプリを起動した。アプリインストール後、神木に説明を受けながら運口座なるものの開設とユーザー登録は既に済ませてあった。アプリのトップ画面に今お勧めの資産運運用がバナー広告で表示されていたが、株や為替取引の類が多く、興味を持てなかった。というか小さく表示された「運資産100万フォルトから」の文字で既に対象外であった。
「あ」
俺はふいに思い立って、別のアプリを起動した。今最もハマっているスマホゲーム『パズル&クリーチャー』通称『パズクリ』だ。そういえば今日から新しいモンスターがガチャに追加されるはずだ。スマホゲームのレアガチャ。これは運資産の効果を試すにはなかなかうってつけの素材ではないか。
俺は再度EasyFを起動すると、運用方法を検索するウィンドウに『パズル&クリーチャー』と打ち込んでみた。数秒の検索時間を経て、画面にズラリと項目が現れる。
レアガチャに関する項目は、やはり人気なのか上の方に表示されており、すぐに見つかった。
・パズル&クリーチャー レアガチャで目的のモンスターを引き当てる
・パズル&クリーチャー レアガチャでスーパーレアモンスターを引き当てる
・パズル&クリーチャー レアガチャでレアモンスターを……
段階を踏んで項目が列挙されていたが、とりあえず一番上をタップして先に進む。次の画面ではその項目が改めて表示され、その下には
「運資産投資目安 10,000フォルト~」
これは安いのだろうか。攻略サイトの情報ではこの俺のほしい限定モンスターをレアガチャで引く確率は0.1%ほどだ。レアガチャ千回引いて一回出る計算。仮に確率通りだとして、課金して当てようと思ったら十万円以上必要だ。そう考えるとスマホゲームって恐ろしい。しかも確実ではない。ならば運資産一万フォルトは安いものではないだろうか。どうせ俺の運でできることなど限られている。五十万もあるんだ。一万くらいどうってことはない。俺は軽い気持ちで自分の運資産口座から一万フォルトを投資するよう申請した。
『ありがとうございます。こちらの投資有効期間は只今から一週間です』
メッセージが表示された。なるほど。有効期間があるのか。俺はすぐにパズクリを再度起動してレアガチャの画面に進んだ。今すぐ引いていいのだろうか。投資した運資産の効果は既に発揮されているのだろうか。少し時間を置いた方がいいのだろうか。少しためらったが、俺は思い切って「ガチャを引く」のキーをタップした。
「おいおい、嘘だろ」
目を疑った。俺が引いたガチャの中から現れたのは、まさに今日から配信されている限定モンスター。しかも攻略サイトの掲示板でも是非手に入れたいと話題になっている人気モンスターだった。
「おっし!」
俺はカフェの中で小さくガッツポーズをした。運の力、恐るべし。俺は上機嫌でアイスコーヒーを喉に流し込む。勝利のアイスコーヒーは普段の倍は美味しく感じた。
だが、ここで一つ、ふと疑問を感じた。
――俺が今、運を投資しなかったら、果たしてこのモンスターはゲットできなかったのだろうか――
という疑問だ。もしかしたら運を投資しなくても、このモンスターをゲットできたのではないか。だがこの事実を過去に戻って確かめることはできない。俺は複雑な気持ちで窓の外に目を向けた。パチンコ店の看板が目に入る。そうだ。今日はそもそも駅前でパチンコでも打とうと思って出かけてきたのだ。それと同時に銀行で目にしたパンフレットの一文が頭をよぎった。
――パチンコで大当たりを引く――
これだ。この運資産の効果をもう一度検証してやろう。俺はアプリを起動してパチンコに関する項目を検索する。機種に関係なく大当たりを引く、という項目は投資1,000フォルトからだった。先ほどより投資目安が安かったこともあり、俺は迷わず投資を決行する。グラスに残ったアイスコーヒーを一気に喉に流し込むと足早にパチンコ店へ向かった。
結果から言う。
千円儲かった。
今のところ二回連続で奇跡が起きている。いよいよ現実味を帯びてきた。
1,000フォルトの投資で千円の儲け。投資額がそのまま現金に還元できるとするならば。俺の運資産残高は489,000フォルト。全額投資した場合の儲けは四十八万九千円。真面目にアルバイトして三か月分くらいの給料に匹敵する。人生を変えるほどの大金ではないが、夢のある金額ではある。だが冷静になって考えると、今のパチンコでは一日で四十万も設けるのはシステム上難しい。
――投資効果を保証するものではありません――
パンフレットに書かれていたあの一文も引っかかる。俺は安全策を取って、バイトが休みの日に少しずつ運を投資することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます